フランス語の本の読書記録 : Tag [ ゴンクール賞 ]

フランス語の小説、漫画、エッセイ等の読書の記録

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2009年ゴンクール・短編小説賞受賞作

16:27

表紙写真vie a coucher dehors「Une vie à coucher dehors」

著者 : Sylvain Tesson
分類 : 短編集、ゴンクール賞、多読

出版社  :  Folio
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 206頁


先にブログで紹介した「S'abandonner à vivre」がおもしろかったので、これは読まないわけにはいかない!と、意気込んで手に取った「S'abandonner à vivre」の著者 Sylvain Tesson 氏の『ゴンクール・短編小説賞』受賞作。
そんな本書でも、「S'abandonner à vivre」と同様、人智では抗うことの出来ない運命の手に弄ばれる人間の姿を描いた短編小説が収録されている。

しかし「S'abandonner à vivre」では、皮肉な運命に対する清々しさにも似た諦観が、それぞれの作品の根底に流れており、それが作品の魅力を成していたのに対し、本書に収録されている大半の作品は、痛烈な運命に対する人間の無力を、巧みなストーリーを用い浮き彫りにする事に専念している。 

優れた構成の短編小説が数多く収録されている作品集なので、「S'abandonner à vivre」を読む前に本書を読んだのなら違った感想が得られたかもしれないが、ままならぬ成り行きにより、窮地に追い込まれながらも、そんな状況へ人間を追い込んだ意地悪な運命に対し、読者に称賛に似た感情を抱かせてしまう、という「S'abandonner à vivre」に認められた芸当が、又、味わえるのではないかと期待して、本書を開いた私は、ほんのちょっぴりだけどがっかりさせられた。  

そんな中、「Le glen」は、「S'abandonner à vivre」に通じる所があるように思われた、茶目っ気の感じられた作品である。

中には、暗~い気分になる作品も含まれているので、あえて、お勧めマーク♥は付けなかったが、フランス人お得意のシニックなオチのある、とても良く出来た短編小説が収録されているので、シニックな作風が気にならない方なら、充実した読後感が得られるのではないかと思った。  

又、本書も「S'abandonner à vivre」と同様、時折、日常会話では、余りお目にかかる事のない単語が登場するが、読み易いフランスで書かれているので、多読用にもお勧めしたい一冊である。

*収録作品

「L'asphalte」
「Les porcs」
「La statuette」
「Le bug」
「Le lac」
「La fille
「Le naufrage」
「La chance」
「Le glen」
「La particule」
「L'île」
「Le sapin」
「Le courrier」
「Le crique」
「Le phare」

【こんな人にお勧め】
意地悪な運命に弄ばれる人間の姿を描いた短編小説集を読みたい方。  シニックなオチのついた短編小説を読みたい方。 多読用。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 3.5/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 S・T・U】 Sylvain Tesson

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2012年ゴンクール賞&フランス主要文学賞受賞作

21:31

2012年、

ゴンクール賞(Prix Goncourt)は、
Jérôme Ferrari 著「Le sermon sur la chute de Rome」 (Actes Sud 出版社)が、

ルノドー賞(Le prix Renaudot)は、
ルワンダ人の Scholastique Mukasonga 氏の著作「Notre-Dame du Nil」(Gallimard 出版社)が、

メディシス賞(Prix Médicis)は、
Emmanuelle Pireyre 著「Féerie générale」(Edition de l'Olivier 出版社)が、

フェミナ賞(Prix Femina)は、
Patrick Deville 著「Peste & Choléra」 (Seuil 出版社)が、

受賞しました。

【関連記事】
  • フェミナ賞受賞作「Peste & Choléra」 のレビュー
  • ゴンクール賞(Prix Goncourt)に関する記事
  • ルノドー賞(Le prix Renaudotに関する記事
  • フェミナ賞(Prix Femina)に関する記事
  • メディシス賞(Prix Médicis)に関する記事


【外部リンク】
  • ゴンクール賞受賞作「Le sermon sur la chute de Rome」のアマゾン・フランスのページ
  • ルノドー賞受賞作「Notre-Dame du Nil」のアマゾン・フランスのページ
  • メディシス賞受賞作「Féerie générale 」のアマゾン・フランスのページ

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2012年ゴンクール賞最終選考通過作品発表

22:05

2012年ゴンクール賞の最終選考通過作品が発表されました。 最終選考に残ったのは、下記の4作です。

- Patrick Deville 著「Peste et choléra」 (Seuil 出版社)

- Joël Dicker 著「La vérité sur l'affaire Harry Québert」 (Fallois 出版社)

- Jérôme Ferrari 著「Le sermon sur la chute de Rome」 (Actes Sud 出版社)

- Linda Lê 著「Lame de fond」 (Bourgois 出版社)


尚、第2次選考通過をしたものの、最終選考に洩れた作品は、

- Vassilis Alexakis 著「 L'enfant grec (Stock 出版社)

- Thierry Beinstingel 著「 Ils désertent」 (Fayard 出版社)

- Mathias Enard 著「 Rue des voleurs 」 (Actes Sud 出版社)

- Joy Sorman 著「 Comme une bête」 (Gallimard 出版社)

の4作。



又、第1次選考に選ばれたものの、第2次選考に洩れた作品は、

- Gwenaëlle Aubry 著「Partages 著」 (Mercure de France 出版社)

- Serge Bramly 著「 Orchidée fixe」 (JC Lattes 出版社)

- Gaspard-Marie Janvier 著「Quel Trésor! 」 (Fayard 出版社)

- Tierno Monenembo 著「Le terroriste noir」 (Seuil 出版社)

の4作。

受賞作の発表は、11月7日に予定。


【関連記事】
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2011年ゴンクール賞受賞作

16:20

表紙写真art francaise de la guerre「L'art français de la guerre」

著者 : Alexis Jenni
分類 : ゴンクール賞

出版社  : Gallimard
本の種類 : ソフトカバー(16x3x23)
ページ数 : 634頁


仕事と結婚に挫折した『私』は、生まれ故郷のリオンの郊外へ帰って来た。
糊口を凌ぐために見つけた、情報誌や広告の配布という仕事の終わりに、カフェで休息を取るようになった私は、カフェの常連に、決して他の常連客と交わらない一人の老人がいるのに気づく。  テーブル一杯に新聞を広げた彼を指し、常連は、インドシナ戦争に行き、色々経験した男だと言う。

日曜日、ノミ市を、冷やかしがてらに歩いていた私は、カフェで見かけた老人が、自分が描いた絵を売っているのを見かける。  Victorien Salagnon というその男が描いた絵の巧みさと、静かな彼の物腰に、魅せられた『私』は、彼に絵を習う事にする。


本書は、人生に行き詰まりを感じている『私』の目に映る、現在フランスの暗い側面を綴った『Commantaires』と題された章と、レジスタンス運動から、インドシナ、アルジェリアの独立戦争をフランス軍の兵士として経験した Victorien Salagnon の人生を綴った『Romans』と題された章の、2つの話が交互に語られる構成になっている。 
『Romans』は、面白かったのだが、普通の神経の人には、仔細とも受け取れる出来事の、暗い側面をつぶさに観察する様が、延々と綴られて行く『Commantaires』の、冗長さには、げんなりさせられた。  フランス社会が抱えている問題を象徴する、日常の一こまを切り取る視点の確かさは、評価出来るものの、うつ病患者のモノローグのような文章が延々と続くので、読むのが、とても苦痛に感じられた。 

そんなわけで、200頁半辺りに差し掛かるまでは、何度か、読み続けるのを止めようと思ったが、それ以後、なんとか持ち返し、500頁に差し掛かる辺りになると、ここまで読んで良かったと感じた。

『侵略者』から、自国を解放するためのレジスタンス運動に加わっていた人達が、今度は逆に、『侵略者』を擁護するための、インドシナ戦争、アルジェリア戦争に、何の疑問も抱かないどころか、大義を感じ、加担していく、という矛盾を付いた、ストーリーを初めとし、恐怖支配に関する考察、何もせずに見ている事は、やっているのと同罪であるという指摘、現代フランスを蝕む問題を解決するには、歴史の再検証が必要なのでは、という提言など、興味深い内容が、盛り込まれている内容の濃い作品なのだが、自己陶酔的なモノローグに、かなりのスペースが割かれているため、比較的平易なフランス語で書かれているにもかかわらず、読むのが、かなり、しんどい小説になってしまっている。

小説を読む習慣のない人にこそ、読んでもらいたいテーマが扱われているだけに、読者サービスの欠如と、小説作法の未熟さが、とりわけ遺憾に思われた。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 2.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 2.5/5(難<易)

【外部リンク】
Alexis Jenni オフィシャル・ブログ

2013年5月21日にレイアウト修正。

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2011年ゴンクール賞&ルノドー賞受賞作発表

21:54

2011年ゴンクール賞(Prix Goncourt)は、
植民地戦争に参加した、フランス軍のパラシュート部隊の兵士を主人公とした、48歳のリオンの高校の理科の教諭の Alexis Jenni 氏の処女作である「L'art français de la guerre」 (Gallimard出版社)が、

ルノドー賞(Le prix Renaudot)は、
ソ連を舞台にした、 Emmanuel Carrère著「Limonov」(POL 出版社)が、受賞しました。

(いずれの受賞作も、現在未読のため、作品タイトルは、アマゾン・フランスへのリンクになっています)

【関連記事】
ゴンクール賞(Prix Goncourt)
ルノドー賞(Le prix Renaudot)

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2011年ゴンクール賞の最終選考通過作品発表

22:15

受賞作の発表が11月2日に予定されている、2011年ゴンクール賞の候補作最終選考通過作品が発表されました。 最終選考に残ったのは、下記の4作です。
  • Sorj Chalandon著「Retour à Killybegs」 (Grasset出版社)
  • Alexis Jenni 著「L'art français de la guerre」 (Gallimard出版社)
  • Carole Martinez著「Du domaine des Murmures」 (Gallimard出版社)
  • Lyonel Trouillot著「La belle amour humaine」 (Actes Sud出版社)


第2次選考通過をしたものの、最終選考に洩れた作品は、
  • David Foenkinos著「Les souvenirs」 (Gallimard出版社)
  • Véronique Ovaldé 著「Des vies d'oiseaux」 (L'Olivier出版社)
  • Morgan Sportès著「Tout, tout de suite」 (Fayard出版社)
  • Delphine de Vigan著「Rien ne s'oppose à la nuit」 (JC Lattès出版社)

の4作。

又、第1次選考に選ばれたものの、第2次選考に洩れた作品は、
  • Stéphane Audeguy 著「Rom@」 (Gallimard出版社)
  • Emmanuel Carrère 著「Limonov」( POL出版社)
  • Charles Dantzig 著「Dans un avion pour Caracas」( Grasset出版社)
  • Simon Libérati 著「Jayne Mansfield 1967」 (Grasset出版社)
  • Ali Magoudi 著「Un sujet français」 (Albin Michel出版社)
  • Eric Reinhardt 著「Le Système Victoria」(Stock出版社)
  • Romain Slocombe 著「Monsieur le Commandant」 (Nil出版社)

の7作です。

ゴンクール賞第1次通過作品全てを対象にした『高校生が選ぶゴンクール賞』の受賞作発表は、11月7日に予定されています。

【関連記事】
ゴンクール賞
高校生が選ぶゴンクール賞

【外部リンク】
Académie Goncourt公式サイト
http://www.academie-goncourt.fr/

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2010年ゴンクール賞&主要フランス文学受賞作

22:12

2010年ゴンクール賞(Prix Goncourt)は、
Michel Houellebecq 著「La carte et le territoire」(Flammarion 出版社)が、

ルノドー賞(Le prix Renaudot)は、
Virginie Despentes 著「Apocalypse bébé」(Grasset 出版社)が、

メディシス賞(Prix Médicis)は、
Maylis de Kerangal 著「Naissance d'un pont」(Verticales 出版社)が、

フェミナ賞(Prix Femina)は、
Patrick Lapeyre 著「La vie est brève et le désir sans fin 」 (P.O.L.出版社) が、

受賞しました。
(いずれの受賞作も、現在未読のため、作品タイトルは、アマゾン・フランスへのリンクになっています)

【関連記事】
ゴンクール賞(Prix Goncourt)
ルノドー賞(Le prix Renaudot)
フェミナ賞(Prix Femina)
メディシス賞(Prix Médicis)
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2010年ゴンクール賞の候補作最終選考通過作品発表

00:24

受賞作の発表が11月8日に予定されている、2010年ゴンクール賞の候補作最終選考通過作品が発表されました。 最終選考に残ったのは、下記の4作です。
  • Virginie Despentes 著「Apocalypse bébé」(Grasset 出版社)
  • Mathias Enard 著「Parle-leur de batailles, de rois et d'éléphants」(Actes Sud 出版社)
  • Michel Houellebecq 著「La carte et le territoire」(Flammarion 出版社)
  • Maylis de Kerangal 著「Naissance d'un pont」(Verticales 出版社)

今年のゴンクール賞は、Michel Houellebecq 氏の受賞が、すでに内定しているという噂が、巷ではささやかれているようですが、最有力候補が受賞を逃すことが、往々にしてあるので、発表が楽しみです。
又、最終候補に残っている、Maylis de Kerangal氏の「Naissance d'un pont」は、すでに、2010年の Prix Médicis(メディシス賞)を受賞しています。

第2次選考通過をしたものの、最終選考に洩れた作品は、
  • Olivier Adam 著「Le Coeur régulier 」(L'Olivier 出版社)
  • Thierry Beinstingel 著「Retour aux mots sauvages」 (Fayard 出版社)
  • Chantal Thomas 著「 Le Testament D'Olympe」(Seuil 出版社)
  • Karine Tuil 著「Six mois, six jours 」(Grasset 出版社)

の4作。

又、第1次選考に選ばれたものの、第2次選考に洩れた作品は、
  • Vassilis Alexakis 著 「Le premier mot」 (Stock 出版社)
  • Vincent Borel著 「Antoine et Isabelle」 (S.Wespieser 出版社)
  • Marc Dugain 著 「L'insomnie des étoiles」 (Gallimard 出版社)
  • Patrick Lapeyre 著 「La vie est brève et le désir sans fin」(P.O.L. 出版社)
  • Fouad Laroui 著「Une année chez les français」(Julliard 出版社)
    Amélie Nothomb 著「Une forme de vie」(Albin Michel 出版社)

の6作です。

ゴンクール賞第1次通過作品全てを対象にした『高校生が選ぶゴンクール賞』の受賞作発表は、11月9日に予定されています。

【関連記事】
ゴンクール賞
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高校生が選ぶゴンクール賞

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2008年ゴンクール賞受賞作品

20:50

「Syngué Sabour: Pierre de patience」
表紙写真sygne sabour
著者 : Atiq Rahimi
出版社: POL
本の種類 : ソフトカバー(14x1x21)
ページ数: 155頁
分類: 中近東が舞台、ゴンクール賞、多読、邦訳有り

戦いの続くアフガニスタンで、首に銃弾を受け、昏睡状態に陥ってしまった夫の世話を1人で続けている女性のモノローグからなる小説。 タイトルにある「Syngué Sabour」は、ペルシャ神話に出てくる、苦しみや悲しみを吸い取ってくれる魔法の石を指しており、その石が砕ける時に、人は全ての苦しみや悲しみから解放されるという。
ヒロインは、息をしているものの、全く外部からの働きかけに反応しない夫を『Syngué Sabour』に見立て、彼女の心を苛んでいる過去の秘密や、苦悩を、語りかけてゆく。

本書は、アフガニスタン戦争を逃れ、パキスタンに亡命、その後、フランスに渡り、ソルボンヌ大学の映像学科で修士を得た、映画監督兼作家である Atiq Rahimi 氏が初めてフランス語で書いた小説で、Atiq Rahimi 氏の4作目の小説にあたり、2008年のゴンクール賞の受賞作。

ゴンクール賞受賞作品というレッテルにつられ、読んだものの、期待はずれ、という本にばかり、ここ数年、出会い続けていたせいで、読みたい本が無かった時に図書館で見つけたので、借りてきた本書も、あまり期待しないで、読み始めたのですが、読み始めたら止める事出来ずに、一気に読み通してしまいました。

押しつぶされるような陰鬱な雰囲気が漂う、病床についた意識不明の夫を見守るヒロインの姿を、散文的なスタイルで描写した冒頭部分に続き、女性蔑視で理不尽な慣習により、人間性を砕かれてしまった不幸なヒロインの姿が、綴られてゆきます。

昨年のゴンクール受賞作の事が頭を横切り、このまま、ラストまで、あわれな1人の女の姿がだらだらと綴られていくのでは・・・と、一抹の不安を抱きましたが、作品中半、作品の方向が急転換を見せ、著者の意図が違うところにあるのが明白になり始めると、もう、釘付けになってしまい、おしまいのページを読み終わるまで、本を手放すことが出来ませんでした。

理不尽なイスラム原理主義の支配される国で、ひっそりと抵抗しながら生き抜いてきたヒロイン、子宝に恵まれないばかりに不幸な境遇に落ちてしまったヒロインの伯母、ゲリラの一員となった薄幸の少年等、人間性を否定されながら生き続けて行く事を強いられた人々の叫びがページの間から響いてきます。 

作中、さりげなく盛り込まれいる、ある程度人生経験を経た人でないと、完全に読みこなせる事は出来ないのではないかと、思われるそんな男女間の微妙な心理や、お伽噺にからめた幸福、正義というものの本質に関する洞察などに、イスラム原理主義に虐待される女性の姿を語った他の作品と一線を画したものが感じられました。

不幸の星の元に生まれ、もがき続けながら生きて来た1人の女性の生き様を、激しく、かつ情感たっぷりに語った作品
読みやすかった作品なので、「ゴンクール受賞作、読みたいけど、難しそう」と、敬遠気味の方に、お勧めしたい一冊です。

本書のペーパーバック版も出版されています。
本書はアマゾン・ジャパンで購入出来ます
本書は「悲しみを聴く石 」のタイトルで邦訳が出版されているようです


【こんな人にお勧め】
中近東に興味のある方。 多読用。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 :(4/5)
フランス語難易度 :(3/5)易<難
読みごこち :(4/5)難<易


2010年7月20日に一部加筆修正。

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1995年にゴンクール賞、高校生が選ぶゴンクール賞、メディシス賞のトリプル受賞作

00:37

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真TestamentFrancais「Le Testament français」

著者 : Andreï Makine
分類 : ゴンクール賞、メディシス賞、高校生が選ぶゴンクール賞、お勧め本、邦訳有り、ソ連・ロシアが舞台

出版社  : Folio
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 342頁


スターリンの独裁政権下のソ連。 シベリアの、果てしなく広がるステップを見下ろすベランダで、パリ生まれの主人公の祖母 Charlotte は、孫たちにフランスの思い出を語る。
古ぼけたスーツケースの中にぎっしり詰まったフランスの古新聞と祖母の思い出話を元に、『私』は、フランスへの憧憬を募らせる。

祖母から話し聞かされた瀟洒で優美なフランス文化に憧れた著者が、スターリンの独裁政権下のソ連で成長してゆく過程と、第二次世界大戦前夜のソ連へ足を踏み入れたフランス生まれの彼の祖母が辿った悲劇的な人生を、並行して語った、著者の自伝的小説。

1995年に、ゴンクール賞、高校生が選ぶゴンクール賞、メディシス賞をトリプル受賞した作品。

と、いう事で、かなり期待して読み始めたのですが、初めのうちは、読むのが、しんどく感じられました。

作品の冒頭から、祖母が孫である『私達』に向けて、フランスの思い出を語る様子が延々と述べられているのですが、まあ、フランス語が母国語でない著者により書かれたとは、信じがたい優美な文章で綴られてあるのにもかかわらず、ロシア皇帝のニコライ二世のフランス訪問の際のディナーのメニューなんかに全く興味のない私には、90頁あたりまでは、読むのが、かなりかったるく感じられ、読むのを止めようかしら、という考えが何度か脳裏を横切りました。

どうして、こんな本が、高校生が選ぶゴンクール賞に選ばれたんじゃ?
などど、文句をたれつつ、まあ、それでも、我慢しながら読み続けていたのですが、主人公の回想が途絶え、祖母の人生が語られる下りになるとかなり、面白くなってきたので、やれやれ。
でも、それから、又、私には退屈に感じられてしまう主人公の思い出話に戻ってしまうのですが、時々挿入される祖母の過去が、とても面白いので、何とか最後まで読みきることが出来ました。

そして、おしまいのページまで読んで、

これは、これは・・・、すごい小説!

という、感嘆の念が、自然と口から洩れました。

ラストまで読んで、初めて、この作品が、「ゴンクール賞」「メディシス賞」「高校生が選ぶゴンクール賞」という、フランスで、話題性のある賞をトリプル受賞したのかが、納得できました。

そんな大きな含みのある小説。

はっきり言って、かなりかったるい下りが多い小説ですが、絶対、ちゃんと最後まで読んで見て下さい。 あなたの苦労は、必ず報われる事と、私は思います。

読み通すのが、かなりしんどかった小説であるにもかかわらず、どうしても、お勧めマークをつけたくなってしまうほど、私を動転させた、そんな素晴らしい一冊。

本書は、著者の自伝的小説だという事ですが、著者の祖母の辿った、あまりにドラマチックで悲劇的な運命と、それに押しつぶされずに、背筋を伸ばして生き抜いてきた彼女の姿勢には、深い感動を覚えずにいられませんでした。

【こんな人にお勧め】
長編小説が苦にならない方。ソ連に興味のある方。感動的な小説を読んでみたいとお思いの方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 5/5
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち    : 2/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 M】Andreï Makine

【外部リンク】
本書の邦訳「フランスの遺言書」のアマゾン・ジャパンの頁

2013年3月30日にレイアウト修正。

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