フランス語の本の読書記録 : Tag [ サスペンス小説 ]

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フランスの人気作家の書き下ろし短編小説が読めるチャリティー本「13 à table」2018年版

21:09

表紙写真13 a table 2018「13 à table ! 2018」

著者 : Maxime Chattam, Michel Bussi 他

分類 : サスペンス小説、ユーモア小説、恋愛小説、歴史小説、短編集、オムニバス短編集、多読


出版社  : Pocket
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 282頁


1985年に、フランスの著名コメディアン、コリューシュにより設立された、恵まれない人々に食事を提供するNPO『Resto du coeur』の活動支援のため、2017年年末に出版されたオムニバス短編集。
先にブログで紹介した「13 à table ! 2016」、「13 à table ! 2017」と同様、13人のフランスの人気作家が、このプロジェクトのために、無料で書き下ろした短編小説が13編収録されている。 

2018年のテーマは『Amitié (友情)』  今回も『友情』をテーマに、サスペンス、恋愛小説、ホームドラマ風な短編、歴史小説風な作品など、バラエティーに飛んだ短編小説が楽しめるラインナップとなっている。

「Tant d'amitié」Françoise Bourdin 著
レストラン経営者とその親友のプレイボーイを巡るお話。 オチは異なるものの、読み始めてすぐにロワルド・ダールの短編を思い出した。 ダールの短編のインパクトが強すぎたため、私には味気なく感じたが、これは好みの問題であろう。

「Je suis Li Wei」Michel Bussi 著
「Nymphéas noirs」でフランス人気推理小説家の位置の躍り出た、Michel Bussi氏による、スパムメール絡みのお話。 アイデアは優れているのだが、ページ数に制限があるためか、細部が疎かのになっているため、物語の信憑性が薄れてしまったのが残念。

「L'Anomalie」Maxime Chattam 著
オチはある程度検討がついてしまったが、夢の中だが、主人公と同じシチェーションを経験した事のある私には、主人公の心理がじわじわと伝わってきた。

「Mon cher cauchemar」Adélaïde de Clermont-Tonnerre 著
短い中に、二人の女性と一人の男の人生がしっかり書き込まれている、長編映画にしても遜色のない短編小説。 

「Oeil pour oeil」Françoise d'Epenoux 著
強度近眼で、かつてレーシック手術を受ける事を考えた事のある私には、背筋が寒くなった作品。 レーシックを受けることを考えている人には是非一読していただきたい。

「Best-Seller」Eric Giacometti & Jacque Ravenne 著
この作品もアイデアは悪くはないのだが、もうちょっと、ディテールを説明してもらいたかった

「L'Escalier」Karine Giébel 著
団地ぐらしの少年が主人公の短編。 斬新なプロットではないし、驚きはないものの、なぜか心が癒やされ、何度も読み返したくなる作品。

「Amitié égyptiennes」Christian Jacq 著
エジプト歴史家で、古代エジプトを題材に数々の小説を発表している、人気歴史小説家の Christian Jacq 氏の手による作品。 小説として楽しむというより、歴史的知識を仕入れるために読みたい作品。

「Pyrolyse」Alexandra Lapierre 著
正反対の二人の女性の友情を描いた短編小説。  ネタバレを避けるため、詳しく書くことは出来ないが、人間を知り尽くしている人でなければ書けない、行間を味わいたい、奥行きの深い作品である。 

「Bande décimée」Marcus Malte 著
チンピラたちを題材にしたポエム。

「Le monde est petit」Agnès Martin-Lugand 著
「13 à table ! 2016」に収録されている「Merci la maîtresse」の後日談。 「Merci la maîtresse」を執筆した時、著者は、この作品を書くことを予定したいたのではないかと思わるストーリーだが、「Merci la maîtresse」を読んでいなくても、本編を味わう事ができる様、配慮が配られている。

「L'incroyable stylo Bic quatre couleurs de Benjamin Bloom」Romain Puértolas 著
「L'extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire ikea」に匹敵する、荒唐無稽だけど、絶対起こりえないとは言い切れない、ボールペンが主人公のユーモア小説。 面白かったです。

「Zina」Leïla Slimani 著
幼馴染へ対する主人公の女性の複雑な思いが語られる作品。 

昨年の年末買い忘れて、最寄りの書店では売り切れになっていた「13 à table 2018」と、なぜかヴァカンスで訪れた避暑地のスーパーの書籍売り場でご対面。  夏季には、人口が10倍に膨れ上がる町なので、去年から売れ残っていたのかしらと思ったのだが、それにしては、他の本は一冊しか陳列されていないのに、この本だけ数冊もあるのは不自然。
この手の短編小説集はヴァカンスで読むのにピッタリだから、このスーパーの仕入れ責任者が、あえてヴァカンス向けに用意したのかもしれない。 だとしたら、この仕入れ責任者は、かなりの読書好きなのであろう。 

「13 a table ! 」2018年版も、例年と同様、「こんな優れたアイデアをチャリティー用の作品に惜しげもなく使ってしまう著者は、なんて太っ腹!」とため息のでた、数々の作品が収録されている。

その中でも、私が最も優れていると思ったのは、
「Mon cher cauchemar」と「Pyrolyse」。 全く異なるタイプの作品だが、友情の複雑さを見事に短編小説の枠内に収めた佳作である。 それから、私が最も気に入った作品は「L'Escalier」。 辛いことがあったら、読み返したくなるタイプの短編である。

13人のフランスの人気現代作家の書き下ろし短編小説を読む事が出来る上、
5ユーローの本書一冊を買うことにより、『Resto du coeur』通し4食の食事が提供出来る、という、読書をしながらチャリティーに参加出来る、お得感満点の一冊。

機会があったら、お買い上げいただきたい一冊である。

【こんな人にお勧め】
色々な現代フランス作家の短編小説を読みたい方。 読書を通してチャリティーに参加したい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 2.5~4.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
  • 「13 à table ! 2016」
  • 「13 à table ! 2017」
  • 著者名別索引・小説 【著者名 B】Françoise Bourdin
  • 著者名別索引・小説 【著者名 B】Michel Bussi
  • 著者名別索引・小説 【著者名 C】Maxime Chattam
  • 著者名別索引・小説 【著者名 E】 Françoise d'Epenoux
  • 著者名別索引・小説 【著者名 G】Karine Giébel
  • 著者名別索引・小説 【著者名 M】Marcus Malte
  • 著者名別索引・小説 【著者名 M】Agnès Martin-Lugand
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Alexandra Lapierre
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Romain Puértolas

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フランスの人気作家の書き下ろし短編小説が読めるチャリティー本「13 à table」2017年版

18:43

表紙写真13 atable2017「13 à table ! 2017」

著者 : Maxime Chattam, Marc Levy 他

分類 : サスペンス小説、ホラー小説、SF小説、ファンタスティック系小説、ユーモア小説、恋愛小説、短編集、オムニバス短編集、多読

出版社  : Pocket
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 282頁


1985年に、フランスの著名コメディアン、コリューシュにより設立された、恵まれない人々に食事を提供するNPO『Resto du coeur』の活動支援のため出版された短編集「13 à table ! 」の2017版。  
先にブログで紹介した「13 à table ! 2016」と同様、13人のフランスの人気作家の書き下ろし短編小説が13編収録されている。 
2017年のテーマは『Anniversaire (誕生日・記念日)』。  『Anniversaire』をテーマに、サスペンス、ホラー、恋愛小説、ホームドラマ風な短編、ファンタスティック小説等など、バラエティーに飛んだ短編小説が楽しめるラインナップとなっている。

旅烏な息子の誕生日を祝う老婦人の姿を描いた
「Un joyeux non-anniversaire」Françoise Bourdin著

投身自殺の真相を掴もうとする保安官が主人公の
「Le Chemin du diable」Maxime Chattam著

富、美、知性に恵まれた腹黒な老婦人の100回目の誕生日パーティーが描かれる
「Cent ans et toutes ses dents」Françoise d'Epenoux著

近未来を舞台に赤ん坊銀行から盗まれた赤ん坊を軸に展開する
「Le voilà, ton cadeau」Caryl Férry著

冷酷な連続誘拐犯のモノローグという形で語られる
「J'ai appris le silence」Karine Giébel著

ある理由から年齢を偽っていた老婦人が主人公の
「Tu mens, ma fille !」Alexanfra Lapierre著

離婚した元妻と暮らす息子の誕生日を祝うため、登山を計画した父親の姿を描いた
「Le soleil devrait être au rendez-vous dimanche」Agnès Ledig著

バスの中で出会った風変わりだけど魅力的な女性との恋愛が描かれる
「Accords nus」Marc Levy著

子供の学校の行事に嫌々参加する羽目になった遅刻魔の母親が奮闘する様が描かれる
「Merci la maîtresse」Agnès Martin-Lugand著

戦闘中に出会った不思議な女性パイロットに翻弄されるフランス軍の飛行機乗りの姿を描いたファンタスティック小説
「L'Echange」Bernard Minier著

「L'extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire ikea」の番外編
「Les 40 ans d'un fakir」Romain Puértolas著

娘と夢のヴァカンスを過ごすため金策に走るシングルマザーの姿が描かれる
「Fuchsia」Yann Queffélec著

2億人に一人以下という、極めて稀な血液型の強度貧血症の女性を軸に展開する
「Lasthénie」Franck Thillier著

全体的に見ると、先に紹介した「13 à table ! 2016」より私好みの作品が多かったように感じられた。

この「13 à table 2017」は、2017年とタイトルにあるが、出版されたのは2016年11月。
「今更レビューをアップするのはどうかしら?」と、躊躇したが、Karine giébel氏の「J'ai appris le silence」が、とても気に入ってしまったので、あえてブログで紹介する事にした次第である。

どの作品も、チャリティー用に書き下ろしたとは思えない、良く出来た作品なのだが、「J'ai appris le silence」には「こんな優れたサスペンス・ホラーをチャリティー用に無料で書き下ろした著者は、なんて太っ腹!」と思った、これまでに読んだ短編サスペンス小説の中でも、トップクラスに入る素晴らしい作品である。  

ちなみに「13 à table 2018」も、気がついた時には近所の書店では売れ切れで、買い損ねてしまった。 しかし、入手出来たらレビューをアップするつもりなので、気長にお待ち下さい。

【こんな人にお勧め】
色々な現代フランス作家の短編小説を読みたい方。 読書を通してチャリティーに参加したい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 2.5~5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
  • 「13 a table ! 2016」
  • 著者名別索引・小説 【著者名 C】Maxime Chattam
  • 著者名別索引・小説 【著者名 F】Caryl Férey
  • 著者名別索引・小説 【著者名 L】Marc Levy
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Romain Puértolas

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ルーマニア人作家の手による推理小説

02:54

表紙写真jeu de miroire「Jeux de miroirs」

著者 : E.O. CHIROVICI
分類 : サスペンス小説、多読、仏訳本


翻訳: Isabelle MAILLET
出版社: Les Escales
本の種類:ソフトカバー(14x2.5x22.5)
ページ数:319頁


2007年、ニューヨーク。 出版エージェントの Peter Katz は、一通の原稿を受け取る。 それは、1987年に起こり、迷宮入りになっていた大学教授殺人事件を題材にした小説の一部だった。 
この小説がベストサラーになる可能性を秘めていると感じた Peter Katz は、原稿の続きを催促するため、送り主である Richard Flynn に連絡を取ろうとするが、 Richard Flynn は肺がんのため入院中。  まもなくして Richard Flynn は死亡し、彼の遺品の中から、原稿の続きは見つからなかった。  

この小説が、Wieder 大学教授殺人事件解決の新しい手がかりを示している事を確信したKatz は、知人のジャーナリストの John Keller に、この迷宮入りの殺人事件についてについての調査を依頼する・・・


推理小説は、決して嫌いではないのだが、ゲップが出るほど読みすぎたので、最近手に取る事は余りない。  

そんな私が本書を読むことになったのは、出版エージェントに送られた原稿が、お話の出発点という事に興味を惹かれたのと(重症の活字中毒の私はこの手の本絡みの話に非常に弱い)、裏表紙の
『Découvrez le roman événement, suspense haletant, traduit dans 38 pays
(この話題作をあなたに、息を呑むサスペンス 38ヶ国で翻訳!)』
というコピーにまんまと引っかかってしまったからである。

ストーリーそのものは、定石を踏んで書かれた変哲もないミステリー。  しかし、流れるような読み心地の、非常にテンポの良い文書で書かれている上、ストーリーテリングが上手いので、それに気づく間もなく、おしまいまで一気に読み干してしまった。

読み終わった所 『le roman événement』というコピーは、かなり大げさではないかしら?というのが、私の正直な感想。  しかし、今まで読んだ事のないルーマニア人作家の小説を発見出来た、という事からすると、『le roman événement』という呼び文句は、あながち間違いでないかもしれない。

ラストの閉め方に、少しだが荒さが認められたのが、ちょつぴり残念に思われた。  

しかし、サクサク読めるミステリーなので、推理小説がお好きな方、そして多読用にお勧めできる一冊ではないかと思った。

【こんな人にお勧め】
優れた叙述法で書かれたミステリーを読みたい方。
多読用。  ルーマニア人推理小説作家の作品を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【外部リンク】
E.O. CHIROVICI オフィシャルサイト


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アルビジョワ十字軍を軸に展開する歴史冒険サスペンス小説

00:20

表紙写真bezier 1209「Béziers 1209」

著者 : Jean d'Aillon
分類 : サスペンス小説、歴史小説

出版社  : Flammarion
本の種類 : ソフトカバー(15.5x3.5x24)
ページ数 : 525頁


愛妻 Sanceline の死の後、領土を配下の者らにまかせ、 Guilhem d’Ussel は、Sanceline との想い出あふれるLamaguère を後にした。 その後、Guilhem d’Ussel はパリに居を定め、フランス王フィリップ2世(Philippe Auguste)の司法官 prévôt を務めていた。 

そんな折、 Saint-Gervais 教会で喉を掻っ切られた娼婦の死体が見つかり、Guilhem d’Ussel はこの殺人犯を捜査する事になる。  しかし、この捜査は、Guilhem d’Ussel とその部下達を思いもよらなかった災難へと導いてゆく・・・。


ローマ教皇インノケンティウス3世の呼びかけにより執行された、アルビジョワ十字軍にまつわる陰謀を軸に展開する『Les Aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour』 シリーズの最新刊。  本書はシリーズ最新刊ではあるが、時系列的には、2014年に発表された長編「Rouen, 1203」と、同年に電子書籍という形で刊行された短編「La mort de Guilhem d'Ussel」の間に位置する作品である。
(Guilhem d'Ussel シリーズの構成については、「Les aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour : Paris, 1199」の記事を参照下さい)

私は、この『Les Aventures de Guilhem d'Ussel』 シリーズを、順番通りに読んでいるわけではなく、飛び飛びに、しかも順不同に読んでいる。  しかし、今回も、これまでの経過や、作中人物と主人公との関係が作中盛り込まれているので、ストーリーを理解するのにさほど支障を感じなかった。  ただ、自分が読んだ事のあるエピソードは、そうでないエピソードより鮮明に浮かんでくるので、やはり、こういったシリーズ物は、順番に読んだほうがいいようである。

この Guilhem d'Ussel が主人公のシリーズは、短編・長編を合わせると、現在15冊が刊行されている。 おまけに今回は、カタリ派弾圧のための十字軍という、入り込んでいる史実がテーマになっている事もあり、作品の冒頭の60頁程が、主に、本編に関わりを持ってくる過去の出来事や、作中人物たちの Guilhem d’Ussel との関係、それから当時の政治的背景を説明するのに費やされている。  そんなわけで、本格的なストーリーに突入するのは、第6章まで待たねばならないので、読み始めはしばしの辛抱が必要である

さて、本書の内容であるが、カトリック教会から異端とみなされていた、宗教カタリ派の打倒のための十字軍の出兵を目論む諸侯と、カタリ派の信者の多くを領民に持つ Guilhem d’Ussel との葛藤を軸に展開する。

今回も、これまでブログで紹介した『Les Aventures de Guilhem d'Ussel』シリーズ作同様、史実と虚構を上手く組み合わせ、ストーリーが構成されている。  又、歴史に関する知識がない人にも、当時の状況がすんなりと飲み込めるよう、配慮が配られている。  そんな訳で、アルビジョア十字軍に関して、あまり良く知らなかった私でも、それが、どういった意図の元、どのように執行されたのが、手に取るように理解出来、その言語道断さに憤慨せずにはいられなかった。

宗教というのみを被って行われる蛮行は、古今東西、同工異曲。  
人間は、自分が正義を執行していると思いこんでいる時には、限りなく野蛮で、残酷で、愚かになれる存在である。
完全な正義など、存在しうる事などあり得ない、
それを肝に銘じて、日々行動しなくてはならない、という思いを、本書を読み終わり改にした。

エンターテイメント性の高い歴史・サスペンス小説ではあるものの、現在の国際社会が必要としている作品であるように、私には思えてはならない。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 3/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 A】Jean d'Aillon

【外部リンク】
Jean d'Aillon オフィシャルブログの「Bézier 1209」紹介ページ

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『Les Aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour』 シリーズ第1弾。

16:46

表紙写真marseille1198「Les aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour : Marseille 1198」

著者 : Jean d'Aillon
分類 : サスペンス小説、歴史小説


出版社  : J'ai lu
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 446頁


1198年。 経済的に繁栄していたマルセイユは、町を手中に収めようと望む領主らの紛争の火種となりうる要素を抱えていた。

そんな折、マルセイユの領主である Roncelin 子爵が行方をくらませ、Roncelin 子爵の愛人とお付きの兵が死体で見つかる。
マルセイユの司法を司る Hugues de Fer は、政敵によりダマスを追われた友人の医師 Ibn Rushd の助けをかりて、この事件を解決しようとする。  

そのため、 Hugues de Fer は、

十字軍遠征から戻ってきた弓の名手 Robert de Locksley 、

トゥールーズからレーモン5世の命を受けマルセイユにやって来た Guilhem d'Ussel、

法王インノケンティウス3世(Innocent III) の密書を Roncelin 子爵へ届けるために大道芸人の隠れ蓑をまとい、イタリアからやって来た姉弟 Anna Maria と Bartolomeo

を Roncelin の愛人の死体が握っていた布切れの衣の持ち主 Hugues des Baux の館へと送り込む。


先にブログで紹介した「Les aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour : Paris, 1199」より前に書かれた『Les Aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour』シリーズ第一弾。  
Guilhem d'Ussel の少年~青年期を描いた『La jeunesse de Guilhem d'Ussel 』シリーズは、本書の後に書かれている。
そんな訳で、本書が、シリーズ名にもなっている Guilhem d'Ussel が登場する、一番初めに書かれた作品という事になる。

(Guilhem d'Ussel シリーズの構成については、「Les aventures de Guilhem d'Ussel, chevalier troubadour : Paris, 1199」の記事を参照ください)

当時のマルセイユの政治・経済状況を上手く盛り込み、活劇・冒険サスペンス小説に仕立てあげたお手並みは見事。  史実を踏まえた上、想像力を膨らませ仕上げられた、破綻のないサスペンスになっているし、当時の商港を中心に発展してきたマルセイユがどのように機能していたのかが、あっさりとだが触れられている。  そんな楽しみながら、当時のマルセイユについての知識を仕入れる事のできる、一石二鳥の歴史・活劇・サスペンス小説が本書である。
又、作品にさりげなく描き込まれている風習や、調度品などの描写も活き活きとしており、ストーリーを盛り上げている。

ただ、そういったプロットや背景描写の素晴らしさと比較すると、主人公をはじめとする、登場人物に関する描写がいささか淡白であるように思われた。
Guilhem d'Ussel が初めて登場した小説であるにも関わらず、Guilhem d'Ussel に関する記述が少なく、本書を読んだだけでは彼の人物像が浮かび上がって来ない。 

私は、すでに、「De taille et d'estoc : La jeunesse de Guilhem d'Ussel」を読んでいたので、あまり気にならなかったが、「De taille et d'estoc 」は、本書の2年後に出版されている。  「De taille et d'estoc 」を読む前に本書を読んでいたら、他の Guilhem d'Ussel が登場する作品を読む気になったかどうか微妙な所である。

細かなストーリー構成、アクションシーンの臨場感は文句ないので、これに人物像の彫りの深さが加われば、鬼に金棒の歴史活劇・サスペンス小説となったのではないかと、少々残念に思われた。 

だが本書を読み終わり、「本書の構想の時点では、著者は Guilhem d'Ussel を軸としたシリーズ物を書く事を計画していなかったのかも?」という考えが、ふと、脳裏を横切った。  なぜなら、Guilhem d'Ussel の名がタイトルに入っているのは、一種のネタバレになってしまっており、サスペンス感を削ぐなう結果となっているからである。  「もし、Guilhem d'Ussel の名前がタイトルに入っておらず、彼が主人公でなかったとしたら・・・」と、考えると、すべての辻褄が合うので、この様な空想を働かせてしまいたくなるのである。

それから、史実ではあるので仕方がないことかもしれないが、かなり猟奇的な行為が登場する。
さらりと書かれているのだけれど、作品を読む上で避けて通れないので、その下りを読んでしまったため、グロテスクな描写が苦手な私はひどく気味の悪い思いをした。
そんな点も、私の本書の評価に加味されているので、その手の描写が気にならない方なら、かなり楽しめるのではないかと思った事を付け加えておきたい。

【こんな人にお勧め】
中世フランス、マルセイユを舞台とした歴史サスペンス小説を読みたいとお思いの方

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 3.5/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 A】Jean d'Aillon

【外部リンク】
Jean d'Aillon 公式サイト

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ブルターニュの島を舞台にしたサスペンス小説

18:47

表紙写真terminus belz「Terminus Belz」

著者 : Emmanuel Grand
分類 : サスペンス小説、多読


出版社  : LIANA LEVI
本の種類 : ソフトカバー(14x2.5x21)
ページ数 : 357頁



ウクライナからフランスへ密入国を試みたものの、トラブルにより、マフィアから狙われる身となった Marko Voronine は、フランスのブルターニュにある、ロリオンまで逃げてきた。  公衆電話から、新聞の求人欄にあった船員募集に電話し、即座に採用された Marko は、ロリオンから勤務先の Belz 島へ向かう連絡船に乗り込む。

ところが、島に着いたMarko を待ち受けていたのは、よそ者が船員として雇われたのを快く思わない、島の海男達だった。


フランス、ブルターニュ地方にある架空の小さな島を舞台にしたサスペンス小説。

サスペンス小説の定石を踏んで展開するものの、民話や迷信や、人間の心理を巧みに織り込んだストーリーは、起伏に富んでおり、中々楽しめた。 又、サスペンス小説には欠かせない読み心地も申し分無し。

サスペンス小説は読み飽きたので、うんざり・・・と、思っていたけれど、こんな小説なら時々読んでもいいなぁ~と、思わせる、息抜きの読書のに最適の一冊。

「Fleur de tonnerre」 でもテーマになっていた、ブルターニュ地方にまつわる古い言い伝えが、ストーリーに大きく関わって来る。  小説としては面白いが、いささか非現実的なので、生粋のブルターニュ人が本書を読んだら「どう思うかしら?」と、ちょっとばかし気になったりもしたが、舞台が架空の島なので、まあ、さほどナーバスになる必要はないかもしれない。  

本書は、Emmanuel Grand 氏の処女小説になるとの事であるが、処女作とは思えない完成の高さ。  先が楽しみな新人サスペンス作家である。

【こんな人にお勧め】
ブルターニュの小さな島を舞台にしたサスペンス小説を読みたい方。 多読用。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【外部リンク】
  • 著者のインタビューの動画も見れるLIANA LEVI出版社の「Terminus Belz」紹介ページ
  • ペーパーバック版「Terminus Belz」



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2015年ルノドー賞受賞作

17:54

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真dapres une histoire vraie「D'après une histoire vraie」

著者 : Delphine de Vigan
分類 : お勧め本、多読、独創的な小説、サスペンス小説、ルノドー賞


出版社  : JC Lattès
本の種類 : ソフトカバー(13.5x3x21)
ページ数 : 479頁


ベストセラーとなった作品の次回作を書くのが、容易でないのは、小説を書いたことのない私にでも、想像に難くない。  読者の期待という大きなプレッシャー、前作という高いハードル、などを超えるには、相当の自己練磨が必要であろう。

2015年のルノドー賞(Prix Renaudot 2015)を受賞した本書は、2011年に出版され、3つの文学賞にノミネートされ、大反響を得た「Rien ne s'oppose à la nuit」 を遥かに凌ぐ出来栄えの、先に挙げた障害を見事にクリアーした小説である。

現実が小説に与える価値を軸に据えた心理小説であるが、それと同時に、本書は良く出来たサスペンス小説でもあるので、その魅力を満喫したいなら、先入観なし読む事が不可欠。
そんな訳で、もし、あなたがすでに「Rien ne s'oppose à la nuit」 を読んでいるのなら、この記事を初めとしたレビューを読まずに、直接本書を手に取る事をお勧めしたい。  

それでも、一応何が書いてあるのか知りたいという方のために、
概要を、かいつまんで書いておく事にしよう。

自分の母親を題材にした小説が大ヒットした、双子の高校3年生の子供を持つシングルマザーの女流作家の Delphine は、ある夜友達のパーティーで L と出会う。 スターや政治家のゴーストライターを職業としている、同年代の L と主人公は、意気投合し、その後も、ちょくちょく逢うようになる。    初めのうちは、単なる気の合う女友達だった L は、高等教育機関進学のため、子供達が家を出て、一人暮らしになった Delphine の心に、巧みに入り込んでゆく。  そして L は、 Delphine にとってかけがえのない親友となったのだが・・・


作品の中では、自分の母をモデルにして書かれた「Rien ne s'oppose à la nuit」 のヒットにより、著者が自問せざるを得なくなった

「読者が求めているのはリアルなのだから、実話に基いた小説のみを書くべきなのか?」

という問いが、繰り返され、その度にヒロインは、それを否定する。

ある事象(現実)を文章で表現するというのは、海にそよぐ波を、書き手という器の中に閉じ込め、読者に提示する様な作業であると、私は思っている。  実際に海で採集された水を使っても、いびつで小さな器に入れられてしまえば、波は元の形を留めはしない。 そんな波より、巨大な透明な器の中で、人工的に作られた液体で再現された波の方が、より事実に近く見えるという事は往々にしてある。
ルポタージュや、ノンフィクションより、ずっと現実を忠実に表現している、と思った小説に出会った事は数知れない。

だから、私は小説にリアリティーを求めはするが、必ずしも実話が下敷きである必要はないと考えている。  しかし、本書を読んで、ヒロインが出会った多くの読者は、そうではないという事を知り、驚かされた。

本書は、そういった問いに対する答えであると同時に、

「Rien ne s'oppose à la nuit」 が出版された後、著者が何度も耳にしたであろう、

 "Qu'allez-vous écrire après ça ?"
(あれの後に何を書くの?)

という問いに対する答えであり、それらの問いを一撃で吹き飛ばした、強烈な平手打ちのような小説である。

480頁近くあるので、手に取った時、その分厚さにちょっと気後れたけれど、読み始めたら、その長さが全く気にならない程、サクサク読めてしまった読み心地の良さ。

軽易な文章のみが用いられているが、決して重みがないわけでなく、心の襞を掻き分け奥まで分け入ってゆくような、なめらかで狡猾な筆致。

極上の心理小説でもあり、サスペンス小説でもある、その精到なプロットと周到な伏線。

本書は、今まで私が読んだ Delphine de Vigan 氏の小説の中で、最も完成度の高い作品である。  
その熟練された小説家としての手練手管に魅了されてしまい、久しぶりに、寝る間を惜しんで読んでしまった。  そして、読み終わった後も、いつもの就寝時間を、とうに越しているというのに、興奮のため、すぐに眠りにつくことが出来なかった。

小説としても優れているが、読み終わった後、小説と現実の関係、小説の読み方、そして、小説そのものに関して、議論を交わしたくなる作品。

読み終えた時、「作家 Delphine de Vigan という大輪の花が開いた」と、思ったけれど、ただ蕾が色づき始めただけなのかもしれない。

【こんな人にお勧め】
「Rien ne s'oppose à la nuit」 を読まれた方。  心理描写が見事な小説を読んでみたいとお思いの方。  良質なサスペンス小説をお探しの方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
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様々なタイプのロマン・ノワールが味わえる短編集

16:27

表紙写真breves de noir「Brèves de noir」

著者 : DOA, Serge Quadruppani, C.Férey 他
分類 : サスペンス小説、短編集、オムニバス短編集、ノワール、ブラックユーモア、多読

出版社  : Points
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 179頁


フランスのリオン市で開催されるサスペンス小説フェスティバル『Le festival Quais du Polar』の10周年を記念し、Points 社から、2014年に出版された短編小説集。
『Le festival Quais du Polar』で、過去に『Prix des Lecteurs(読者賞)』を受賞した9人の作家の未刊のノワール小説が収録されており、各短編の初めに、著者の略歴が掲載されている。


2003年のイラクを舞台に、アメリカの特殊部隊の戦闘を描いた
DOA 著「La meute」

『Affaire Véronique Courjault』を彷彿させる
Franck Thilliez 著「Le clandestin」

2007年アメリカのオハイオ州のマンスフィールドで発覚した、数奇な事件にインスピレーションを得、書かれた
François Boulay 著「Un canard au sang 」

死者と対話する能力を持つ男を軸に展開する
Marcus Malte 著「Max Vegas」

家族と一緒にクリスマスをカリブ海クルーズで過ごす事にした作家が語り手の
Caryl Férey 著「L’échappée」

田舎の貧乏家庭から、立身出世し、国際企業の役員になった男の半生を描いた
Antoine Chainas 著「Une trajectoire」

権力者により雇われた男の目から見たアラブの春が描かれる
Serge Quadruppani 著「Le point de vue de la gazelle」

フランスの田舎町に洋裁店を開いた女性が主人公の
Antonin Varenne著「Dernière lumière」

147日間をモスクワ空港で過ごした後、亡命先のアイスランドへ行くため、FSBのエージェントにエスコートされ Teriberka へ向かう Snowden の姿をユーモラスに描いた
Olivier Truc 著「L’exfiltration de Snowdenski 」

以上の9篇の短編小説が収録されている。


フランスには、『Roman noir』と呼ばれている小説のジャンルがある。
日本人の中には、暴力や犯罪を書く事=ノワールだと、思っている人もいるようであるが、フランスで『Roman noir』に分類される小説の幅はもっと広い。
勿論、『Roman noir』の代表とされる『Série noir』と呼ばれるジャンルに属する小説は、犯罪や犯罪者をサスペンス調に描いたものが大半であるが、 サスペンスでなくとも、犯罪が作品の軸に据えられていなくとも『Roman noir』に分類される作品も存在する。  

今まで多くの『Roman noir』と呼ばれる小説を読んで来た経験から言うと、大概にして、絶望の一つ(あるいは複数の)形を描いた小説が『Roman noir』と呼ばれる傾向にあるのではないかと、私は考えている。

と、まえがきが長くなってしまったが、本書には、そんなバラエティーに飛んだ『Roman noir』の9つの異なったタイプの短編小説が収録されている作品集。


グロテスクな描写がない戦闘を描いた作品でも『Roman noir』に成りうるという事を示した 「La meute」

どちらかというと、正統派(?)のノワールに分類されるのではないかと思われるが、それぞれ手法が異なった
「Le clandestin 」「Un canard au sang 」「Dernière lumière」

「Max Vegas 」 の様なファンタスティック的な要素を含むノワール

社会派小説的な要素もある 「Le point de vue de la gazelle」

それから、「これもNoirに分類されるの?」と、一部の日本の読者は驚かれるかもしれないが、「これこそが、ノワールの真髄」と、私は呼びたくなった 「Une trajectoire」

そして一見すると、ノワールではないようにも思えるけれど、良く考えると、「これ程意地悪なノワールはないのではないか!」と賛美したくなる、ブラックユーモアとノワールの融合が見事な 「L’échappée」や「L’exfiltration de Snowdenski 」

とにかく、ありとあらゆるタイプのロマン・ノワールが味わえるので、『Roman noir』というジャンルの懐の深さを実感するのに最適な一冊。

ノワール小説ファンの方に、お勧めしてい一冊である。

【こんな人にお勧め】
ロマン・ノワールのファン。 様々なタイプのノワールを一度に味わえる作品集を読みたい方。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
  • 著者名別索引・小説 【著者名 D】DOA
  • 著者名別索引・小説 【著者名 F】Caryl Férey
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Serge Quadruppani

【外部リンク】
『Le festival Quais du Polar』公式サイト



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ユーゴスラビア紛争当時のボスニアを舞台に、国際援助活動のあり方を問うたジャン=クリストフ・リュファン氏の小説

15:40

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真check point「Check-point」

著者 : Jean-Christophe Rufin
分類 :社会派小説、サスペンス小説 、恋愛小説、冒険小説、お勧め本

出版社  : Gallimard
本の種類 : ソフトカバー(14x2.5x20.5)
ページ数 : 387頁


ユーゴスラビア紛争当時のボスニアを舞台に、フランス、リオンに拠点を持つ小規模なNGO『Tête d'or』 に属する4人の男と一人の女性が、2台のトラックに積んだ救援物資を、紛争真っ只中のボスニアの Kakanj へ運送する様を描いた小説。

幼少の頃から、他人へ心を開く事を頑なに拒み続けている、美しい容姿をぞんざいな衣服で隠している Maud、

今回の任務の責任者であるが、それまでは事務を担当していた内気な Lionel、

国際連合平和維持軍従軍経験のある元軍人の Marc と Alex、

大型運転免許は持っていないが、メカ修理要員として、トラックに乗り込んだ Vauthier、

この5人は、救援物資をボスニアの Kakanj まで届けるため、2台のトラックに乗り込む。

ところが、ごく普通の援助活動だったはずが、トラックが目的地に近づくにつれ、5人の過去と思惑少しづつ、露呈してゆく・・・


以前ブログで紹介した Rufin 氏の「Le collier rouge」 も、多様な要素を含んだ小説であったが、本書も、それと同様、心理小説であり、サスペンス小説でもあり、冒険小説でもあり、恋愛小説でもあり、社会派小説でもある、という盛りだくさんな内容になっている。 
このように、一つの作品に多彩な要素を盛り込むと、消化不良に陥る事が往々にあるが、この作品も「Le collier rouge」 と同様、巧妙かつ堅固な構成を打ち建てる事により、すべての要素を見事に融合させ、気持ち良いほどすっきりとまとまった作品に仕立てあげられている。

ジャン=クリストフ・リュファン氏は、初期の国境なき医師団のメンバーであり、『Action Internationale Contre la Faim (飢餓撲滅国際活動団体)』の会長を勤めた事もあり、NGOでの活動経験が豊富。
『Postface(あとがき)』には、氏がユーゴスラビア紛争時にボスニアの Kakanj を訪れた際、目に焼き付いた、石炭炭鉱で見たある光景が、本書の出発点になっているという記述がみられた。

又、『Postface(あとがき)』では、
...........Ce roman met en scène ces contradictions, ces questionnement, ces déchirements. Il est composé comme une sorte de huis clos roulant. Les cinq personnages qui sont enfermés dans les cabines de deux camions vivent en direct, et sous la forme d'un drame personnel, l'ebranlement de leurs certitudes et le changement de leur univers.   Engagés dans une action humanitaire "classique" (apporte des vivres et des médicaments à des populations victimes de la guerre), ils vont passer de vrais chek-points mais aussi se confronter à une frontière mentale plus essentiellle. De quoi les "victimes" ont-t-elle besoin? De survivre ou de vaincre? ..........

..........この小説は、これらの矛盾、これらの疑問、これらの引き裂かれた思いに、スポットライトが当てられている。 ロードムービー的な『出口なし(HuisではClos)』となっている。  2台のトラックに閉じ込められた5人、それぞれが劇的な出来事を体験する事により、確信がゆらぎ、彼らの世界が変貌する様を、直に体験する。

『古典的』な人道的活動(戦争の犠牲者への食料及び医薬品の供給)に携わっている彼らは、実際にあるチェックポイントを通過するだけでなく、より本質的な自分の内面にある境界線と対峙する。 
戦争の被害者達は、本当に何を求めているのか? 食料、それとも武器? 生き残ること、それとも打ち負かす事?  

と、述べている。  


正解など存在しない、これらの問いを読者へ投げかけると同時に、作中人物達の内面が明らかになるにつれ、ストーリーは何度も、急カーブを切り、人間の感情の深みに続くつづら折りの坂道を下ってゆく。

国際援助活動に興味のある方は勿論の事、そうでない方でも人間心理の妙を描いたサスペンスタッチの作品を読みたいとお思いの方、優れた構成力の感じられる小説を読みたいと思っている方に、お勧めしたい一冊である。

【こんな人にお勧め】
国際援助活動に興味のある方。  人間心理の妙を描いた小説を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 R】Jean-Christophe Rufin

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南仏のクラブを軸に繰り広げられるジグソーパズルの様な構成のエンタメ小説

16:04

表紙写真kif「Kif」

著者 : Laurent Chalumeau
分類 : サスペンス小説、風刺小説、ハードボイルド

出版社  : Grasset
本の種類 : ソフトカバー(20.5x3x13.5)
ページ数 : 459頁



国際的に著名な俳優より前に生まれたものの、不幸な事に両親が『Georges』という名前を選んだため、自己紹介するたびに気まずい思いをしている Georges Clounet という名の元機動隊員がこの小説の主人公。

大使警護の職を定年退職し、キャンプ場を購入して悠々自適な引退生活を送ろうと、 Georges はフランスへ帰ってきた。  ところが、Georges が預金管理を任せていた、モナコの投資会社に務める義理の兄の Régis は、 Georges 許可無く彼の預金を投資しており、Georges は預金がほとんど残っていないという事実を知らさせる。

義弟が彼の預金の大半を投資した、サウジアラビアの富豪が計画したドバイのスキー場建設計画は、中止になってしまったため、資金回収はほぼ不可能だと、Régis は言う。  そこで、Georges は、もう一件の投資先であるニース郊外にあるクラブの経営者と逢うため、 Régis と共にクラブへ足を運ぶ。 ところが、 Georges の目の前で、クラブに男達が押し入り、自動小銃を発砲するという事件が起る。


成り行きから、クラブを経営する事になってしまったが、ナイトビジネスの事など全く知らない一本気の Georges は、甘い汁を吸おうと、寄って来たちんぴらや警官を鼻であしらい、自分の流儀でクラブを経営しようとする。

そんな Georges に一矢報いようと躍起になるチンピラ、ヒモや悪徳警官に、
風紀と治安を乱すという名目で、 Georges のクラブの閉鎖を要求する極右政党国民戦線所属の市議、
イスラム原理主義に改宗した元営業マンのフランス人、
ジハード参加経験があるという噂のあるアラブ系フランス人のガードマン、
サウジアラビアの富豪、
等などが、それぞれの利を求め、錯綜する様が、デンポ良く描かれてゆく。

現在の南仏の社会的縮図を形どった、いびつな形をしたピーツを一つ一つ、丹念にこしらえ、それをストーリーの中に巧妙に嵌め込ながら、著者は、壮大な立体パズルを組み上げていく。

そして、最後まで読み終わってから初めて、こんな危ういバランスを保ちながらも、きちんと地に足が着いた建築物を建てるには、細密な設計図が、必要だったのでは?と、初めて気がつく、そんな仕組みになっている。

中盤までのテンポの良さと比較すると、終盤は、筆致のリズムがスローモードになるものの、ラストでは、強大なジグソーパズルを完成させた時のような、全てのピースがぴっちりと、噛み合う、心地よさを感じ取ることが出来た。

厳密には、ハードボイルドとも、サスペンスとも、コメディーとも呼ぶ事は出来ないが、サスペンス、アクション、コミカル、そしてハードボイルド的な要素を備えている、快適な時間を送ることの出来たエンタメ小説。

時々俗語が顔を出すので、フランス語難易度は、難しめに設定したが、くだけた口語調の読み易い文体で書かれているので、俗語が気にならない方の多読用にも、お勧め出来るのではないかと思った。

【こんな人にお勧め】
南仏のクラブを軸に繰り広げられるエンタメ小説を読みたい方。 よく出来た構成のエンタメ小説を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 C】Laurent Chalumeau

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