フランス語の本の読書記録 : Category [ 小説・エッセイ・ノンフィクション ]

フランス語の小説、漫画、エッセイ等の読書の記録

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知的でないけど知的に見えたい人向けの本

20:52

表紙写真comment paraitre intelligent「Comment paraître intelligent」

著者 : Pierre Menard
分類 : エッセイ


出版社  : Le Cherche Midi
本の種類 : ソフトカバー(12x1.5x20)
ページ数 : 184頁


かなり前にこのブログで紹介した「20 bonnes raisons d'arrêter de lire」読書を止めるべきもっともな20の理由」の著者による、ユーモアエッセイ。

タイトルから判断するに、「20 bonnes raisons d'arrêter de lire」と同様、まさに私が必要としている本である。

通常、多くの人により読み飛ばされる巻頭の献辞のページで抱腹絶倒。 今まで読んだ最も優れている(?)本の献辞である。

どうしたら知的に見えるかという難題にアプローチを試みている本書でも「20 bonnes raisons d'arrêter de lire」と同様、古今東西の文学作品からの抜粋や、有名人の発言をふんだんに盛り込まれている。

会話で使用する語彙、口調や、逸話や名著からの引用・・・等などに関するアドバイスから、口論での勝ち方、映画や読書のチョイス、そして挙げ句の果てには名前や職業に至るまで、知的に見えるためのふるまい方が指南されている。

ただ、タイトルには「Comment paraître intelligent」とあるが、本書はハウツー物ではないので、即戦力となる実践性はあまり期待できない。 

しかし、
Le verbe aimer est difficile à conjuguer :
son passé n'est pas simple, son présent n'est qu'indicatif, et son futur toujours conditionnel.
- Jean Cocteau

(愛するという動詞は活用するのが難しい :
その過去は単純ではなく、その現在は徴候でしかなく、その未来は常に条件付きである)
- ジョン・コクトー

On dit "mon colonel" dans l'armée de terre mais seulement "amiral" dans la marine. La légende veut que Napoléon ait interdit l'emplois de "mon" (abréviation de monsieur) dans la Royale, trouvant les marins indignes d'être considérés commme des hommes après la défaite de Trafalgar.

(陸軍では(大佐の事を)「モン・コロネル」と呼ぶが、海軍では(モンを付けずに)「アミラル」と呼ぶ。 これは、トラファルガーでの敗戦の後、海軍はムッシューと呼ぶに値しないと考えたナポレオンが、ムッシューの略である「モン」の使用を禁止したからだと言われている)

On oublie sa faute quand on l'a confessée à un autre, mais d'ordinaire l'autre ne l'oublie pas.
- Nietsche

(罪を打ち明けた後、人はその罪を忘れてしまうが、打ち明けられた方は、概してそれを忘れはしない。 
- ニーチェ)

Amitié : embarcation assez grande pour porter deux personnes par berau temps, mais une seule en cas de tempête.
- Ambrose Bierce

(友情 :  晴天では二人の人間を乗せられるほどの大きさがあるが、嵐のときは一人でしか乗る事の出来ない大きさの船。 
- アンブローズ・ビアス)

などの、興味深く、実際に会話の中で使える名著からの引用や、トレビアンなどが豊富に盛り込まれているので、賢さとおバカさをネタにした、ユーモアエッセイを読みたいとお思いの方は、本書を片手に楽しいときを過ごせるのは間違いない。

それにしても、本書で引用されている著作の豊富さには、「20 bonnes raisons d'arrêter de lire」を読んだときと同様、圧倒された。

副題に『ou Petit bréviaire destiné à ceux qui ne le sont pas, écrit par quelqu'un qui aurait besoin de le lire(もしくは、本書を読む必要のある人間によって書かれた、知的でない人達へ向けのミニ虎の巻)』とあるが、本書を読み終わり、私には、どうにも著者が『quelqu'un qui aurait besoin de le lire(本書を読む必要のある人間)』ではない様に思えて仕方がない。  
これが単なる謙遜であるのか、はたまた本書のアドバイスを実施した結果なのか、非常に気になるところである。

【こんな人にお勧め】
知的な会話をしてみたい方。  名著の引用をふんだんに盛り込んだユーモアエッセイを読みたい方。  「20 bonnes raisons d'arrêter de lire」が気に入られた方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・エッセイ Pierre Menard

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1980年台のフランスを舞台にしたロンド形式の小説

00:42

表紙写真Chapeau de Mitterrand「Le chapeau de Mitterrand 」

著者 :  Antoine Laurain
分類 : 多読


出版社  : J'ai lu
本の種類 : ペーパーバックソフトカバー(14x1x21)
ページ数 : 190頁


パリのレストランで一人で夕食を取った際、Daniel Mercier は偶然、フランソワ・ミッテランの隣のテーブルになる。 食事を終えミッテラン達が店を出た後、帽子が忘れられていたのに気づいた Mercier は、こっそりと帽子を持ち帰る・・・

1980年台のフランスを舞台に、FMのイニシャルの入った帽子を軸に展開するロンド形式の連作短編小説。

目の出ないキャリアを歩んでいる管理職、未来のない不倫の関係を断ち切れない独身女性、精神分析医のカモの調香師・・・等の、帽子を手に入れた男女が、気づかずに自らを縛っていたルーチンを打ちこわし、行き詰まった人生に新たな道を切り開いていく様が描かれて行く。

この本を読むと、一部のフランス人にとっては、故フランソワ・ミッテラン大統領というのは、特別な存在だったのだなぁと思い知らされる。  

一つの章の長さが短く。サクサク読めてしまうので、ヴァカンスのお供や、多読に最適な一冊である。

【こんな人にお勧め】
サクサク読める連作短編小説をお探しの方。 ミッテラン大統領がフランス人に与えた影響が感じられる小説をお探しの方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 L】Antoine Laurain

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フランスの人気作家の書き下ろし短編小説が読めるチャリティー本「13 à table」2018年版

21:09

表紙写真13 a table 2018「13 à table ! 2018」

著者 : Maxime Chattam, Michel Bussi 他

分類 : サスペンス小説、ユーモア小説、恋愛小説、歴史小説、短編集、オムニバス短編集、多読


出版社  : Pocket
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 282頁


1985年に、フランスの著名コメディアン、コリューシュにより設立された、恵まれない人々に食事を提供するNPO『Resto du coeur』の活動支援のため、2017年年末に出版されたオムニバス短編集。
先にブログで紹介した「13 à table ! 2016」、「13 à table ! 2017」と同様、13人のフランスの人気作家が、このプロジェクトのために、無料で書き下ろした短編小説が13編収録されている。 

2018年のテーマは『Amitié (友情)』  今回も『友情』をテーマに、サスペンス、恋愛小説、ホームドラマ風な短編、歴史小説風な作品など、バラエティーに飛んだ短編小説が楽しめるラインナップとなっている。

「Tant d'amitié」Françoise Bourdin 著
レストラン経営者とその親友のプレイボーイを巡るお話。 オチは異なるものの、読み始めてすぐにロワルド・ダールの短編を思い出した。 ダールの短編のインパクトが強すぎたため、私には味気なく感じたが、これは好みの問題であろう。

「Je suis Li Wei」Michel Bussi 著
「Nymphéas noirs」でフランス人気推理小説家の位置の躍り出た、Michel Bussi氏による、スパムメール絡みのお話。 アイデアは優れているのだが、ページ数に制限があるためか、細部が疎かのになっているため、物語の信憑性が薄れてしまったのが残念。

「L'Anomalie」Maxime Chattam 著
オチはある程度検討がついてしまったが、夢の中だが、主人公と同じシチェーションを経験した事のある私には、主人公の心理がじわじわと伝わってきた。

「Mon cher cauchemar」Adélaïde de Clermont-Tonnerre 著
短い中に、二人の女性と一人の男の人生がしっかり書き込まれている、長編映画にしても遜色のない短編小説。 

「Oeil pour oeil」Françoise d'Epenoux 著
強度近眼で、かつてレーシック手術を受ける事を考えた事のある私には、背筋が寒くなった作品。 レーシックを受けることを考えている人には是非一読していただきたい。

「Best-Seller」Eric Giacometti & Jacque Ravenne 著
この作品もアイデアは悪くはないのだが、もうちょっと、ディテールを説明してもらいたかった

「L'Escalier」Karine Giébel 著
団地ぐらしの少年が主人公の短編。 斬新なプロットではないし、驚きはないものの、なぜか心が癒やされ、何度も読み返したくなる作品。

「Amitié égyptiennes」Christian Jacq 著
エジプト歴史家で、古代エジプトを題材に数々の小説を発表している、人気歴史小説家の Christian Jacq 氏の手による作品。 小説として楽しむというより、歴史的知識を仕入れるために読みたい作品。

「Pyrolyse」Alexandra Lapierre 著
正反対の二人の女性の友情を描いた短編小説。  ネタバレを避けるため、詳しく書くことは出来ないが、人間を知り尽くしている人でなければ書けない、行間を味わいたい、奥行きの深い作品である。 

「Bande décimée」Marcus Malte 著
チンピラたちを題材にしたポエム。

「Le monde est petit」Agnès Martin-Lugand 著
「13 à table ! 2016」に収録されている「Merci la maîtresse」の後日談。 「Merci la maîtresse」を執筆した時、著者は、この作品を書くことを予定したいたのではないかと思わるストーリーだが、「Merci la maîtresse」を読んでいなくても、本編を味わう事ができる様、配慮が配られている。

「L'incroyable stylo Bic quatre couleurs de Benjamin Bloom」Romain Puértolas 著
「L'extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire ikea」に匹敵する、荒唐無稽だけど、絶対起こりえないとは言い切れない、ボールペンが主人公のユーモア小説。 面白かったです。

「Zina」Leïla Slimani 著
幼馴染へ対する主人公の女性の複雑な思いが語られる作品。 

昨年の年末買い忘れて、最寄りの書店では売り切れになっていた「13 à table 2018」と、なぜかヴァカンスで訪れた避暑地のスーパーの書籍売り場でご対面。  夏季には、人口が10倍に膨れ上がる町なので、去年から売れ残っていたのかしらと思ったのだが、それにしては、他の本は一冊しか陳列されていないのに、この本だけ数冊もあるのは不自然。
この手の短編小説集はヴァカンスで読むのにピッタリだから、このスーパーの仕入れ責任者が、あえてヴァカンス向けに用意したのかもしれない。 だとしたら、この仕入れ責任者は、かなりの読書好きなのであろう。 

「13 a table ! 」2018年版も、例年と同様、「こんな優れたアイデアをチャリティー用の作品に惜しげもなく使ってしまう著者は、なんて太っ腹!」とため息のでた、数々の作品が収録されている。

その中でも、私が最も優れていると思ったのは、
「Mon cher cauchemar」と「Pyrolyse」。 全く異なるタイプの作品だが、友情の複雑さを見事に短編小説の枠内に収めた佳作である。 それから、私が最も気に入った作品は「L'Escalier」。 辛いことがあったら、読み返したくなるタイプの短編である。

13人のフランスの人気現代作家の書き下ろし短編小説を読む事が出来る上、
5ユーローの本書一冊を買うことにより、『Resto du coeur』通し4食の食事が提供出来る、という、読書をしながらチャリティーに参加出来る、お得感満点の一冊。

機会があったら、お買い上げいただきたい一冊である。

【こんな人にお勧め】
色々な現代フランス作家の短編小説を読みたい方。 読書を通してチャリティーに参加したい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 2.5~4.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
  • 「13 à table ! 2016」
  • 「13 à table ! 2017」
  • 著者名別索引・小説 【著者名 B】Françoise Bourdin
  • 著者名別索引・小説 【著者名 B】Michel Bussi
  • 著者名別索引・小説 【著者名 C】Maxime Chattam
  • 著者名別索引・小説 【著者名 E】 Françoise d'Epenoux
  • 著者名別索引・小説 【著者名 G】Karine Giébel
  • 著者名別索引・小説 【著者名 M】Marcus Malte
  • 著者名別索引・小説 【著者名 M】Agnès Martin-Lugand
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Alexandra Lapierre
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Romain Puértolas

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レズヴィアン・カップルにより育てられた男の子の青春を描いた小説

02:57

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真De linfluence de David Bowie「De l'influence de David Bowie sur la destinée des jeunes filles」

著者 : Jean-Michel Guenassia
分類 : 風刺小説、恋愛小説、お勧め本


出版社:Albin Michel
本の種類:ソフトカバー(14x3x20.5)
ページ数:343頁


著名なタトゥー・アーティストで、ハーレー・ダビッドソンを愛する永遠のアウトローの母親 Léa と、Léa のパートナーの Stellla の二人の女性に育てられた、男の子 Paul の青春を描いた小説。


Paul は、物心ついたときから母親の Léa と 彼女のパートナーである Stellla と共に暮らしていた。 Léa は、世間の常識や息子の教育に全くう頓着であったため、Paul は幾度も窮地に追い込まれるが、その度に、スチュワーデスからレストラン経営者へ転業した Stellla の機転により救われる。

Paul は、父親がいない事など全く気にならなかったが、周りはそうとは思わず、学校で Paul は、幾度か気まずい思いをしたり、いじめられたりする。  Alex は、そんな Paul の唯一の友人であった。
Paul にピアノに対する才能があるのを見抜いた音楽教師から、音楽学校へ行くようにと、 Paul はアドヴァイスされるが、Léa は頑なにそれを拒否する。  学校に居所を見いだせない Paul は、ピアノのある Alex の家に入り浸り、独学でピアノ演奏をマスターする。

その後、学校を中退した Paul は、レズヴィアンの女性が集まる Stellla の経営するレストランで、ピアノを弾き、小遣いを稼ぐようになる。  中性的な容姿を持つ Paul が女性であるか男性であるかは、レストランの客の間で謎となった・・・


中性的な容姿を持ち、レズヴィアンカップルに育てられたけれど、ノンケの Paul 。  親友で、たった一人の同性の友達から、思いを打ち明けられて、ちょっぴり心が動いたけれど、やっぱり Paul は女性が好き。  だけど、Paul の周りにいるのは、レズヴィアン・コミュニティーに属する女性ばかり。  彼に色目を使う女性は、皆、彼の事を女性だと思っている。 Paul が女の子だったら、簡単に落とせるけれど、男だとバレたら元の木阿弥。  だけど女性のふりをしている限り、彼女達と肉体関係を持つのは至難の業・・・。

好きになるのはレズヴィアンの女性ばかり、という複雑な Paul の恋、中年になっても世間の常識と相容れない Léa のワイルドな暮らしぶりや、家族と一切のコンタクトを断った Léa の過去、そして、Paul と Léa の葛藤等などが、テンポのいい文章で語られてゆく。

読んでる途中、何度も「これは、漫画やアニメ化すべきでは!」と、思った、日本の漫画ファンに、超うけそうなストーリー。  しかし、LGBTがらみの、時流に乗ったテーマを扱ってはいるものの、ラノベやエンタメ小説などは格の違う、きっちりとした文章で書かれている文学作品である。

同性カップルが普通で、異性のカップルが異端という、世間の常識とは正反対の世界で展開する、この小説を読んでいると、結局のところ、男とか女なんていう区別は大して重要ではない、という事に気付かされる様になる。

又、ハーレー・ダビッドソンとパンクファッションで武装する事でしか自分を護るすべを持たない、Léa の過去や、彼女のひたむきで、傷つきやすく、人の良い、隠れた本質が浮き上がってくる後半の展開には、いたく心を動かされた。

ストーリー構成はよく出来ているし、扇情的な描写を避け、Paul の心の動きを細やかに、かつテンポよく綴った筆致も見事。  だけど、この作品の一番の魅力は、やはり登場人物の性格設定の作り込みの深さと巧みさ。  
主人公の Paul は、勿論の事、彼の母親 Léa にそのパートナーの Stellla、Paul の親友 Alex や、元いじめっ子の Jason 等など、それぞれのサイドストーリーを読みたくなってしまう程、好奇心をそそられる人物が後から後からと、目白押し。

主人公を取り巻く人物達が、あまりに魅力的なので、彼らの過去やその後を描いたサイドストーリーや、続編を読んでみたくなった。

邦訳して、漫画化、アニメ化してもらいたい作品である。

【こんな人にお勧め】
レズビアン・カップルに育てられた男の子の青春を描いた小説を読みたい方。 キャラクター設定が巧みな小説を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 G】Jean-Michel Guenassia

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フランスの人気作家の書き下ろし短編小説が読めるチャリティー本「13 à table」2017年版

18:43

表紙写真13 atable2017「13 à table ! 2017」

著者 : Maxime Chattam, Marc Levy 他

分類 : サスペンス小説、ホラー小説、SF小説、ファンタスティック系小説、ユーモア小説、恋愛小説、短編集、オムニバス短編集、多読

出版社  : Pocket
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 282頁


1985年に、フランスの著名コメディアン、コリューシュにより設立された、恵まれない人々に食事を提供するNPO『Resto du coeur』の活動支援のため出版された短編集「13 à table ! 」の2017版。  
先にブログで紹介した「13 à table ! 2016」と同様、13人のフランスの人気作家の書き下ろし短編小説が13編収録されている。 
2017年のテーマは『Anniversaire (誕生日・記念日)』。  『Anniversaire』をテーマに、サスペンス、ホラー、恋愛小説、ホームドラマ風な短編、ファンタスティック小説等など、バラエティーに飛んだ短編小説が楽しめるラインナップとなっている。

旅烏な息子の誕生日を祝う老婦人の姿を描いた
「Un joyeux non-anniversaire」Françoise Bourdin著

投身自殺の真相を掴もうとする保安官が主人公の
「Le Chemin du diable」Maxime Chattam著

富、美、知性に恵まれた腹黒な老婦人の100回目の誕生日パーティーが描かれる
「Cent ans et toutes ses dents」Françoise d'Epenoux著

近未来を舞台に赤ん坊銀行から盗まれた赤ん坊を軸に展開する
「Le voilà, ton cadeau」Caryl Férry著

冷酷な連続誘拐犯のモノローグという形で語られる
「J'ai appris le silence」Karine Giébel著

ある理由から年齢を偽っていた老婦人が主人公の
「Tu mens, ma fille !」Alexanfra Lapierre著

離婚した元妻と暮らす息子の誕生日を祝うため、登山を計画した父親の姿を描いた
「Le soleil devrait être au rendez-vous dimanche」Agnès Ledig著

バスの中で出会った風変わりだけど魅力的な女性との恋愛が描かれる
「Accords nus」Marc Levy著

子供の学校の行事に嫌々参加する羽目になった遅刻魔の母親が奮闘する様が描かれる
「Merci la maîtresse」Agnès Martin-Lugand著

戦闘中に出会った不思議な女性パイロットに翻弄されるフランス軍の飛行機乗りの姿を描いたファンタスティック小説
「L'Echange」Bernard Minier著

「L'extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire ikea」の番外編
「Les 40 ans d'un fakir」Romain Puértolas著

娘と夢のヴァカンスを過ごすため金策に走るシングルマザーの姿が描かれる
「Fuchsia」Yann Queffélec著

2億人に一人以下という、極めて稀な血液型の強度貧血症の女性を軸に展開する
「Lasthénie」Franck Thillier著

全体的に見ると、先に紹介した「13 à table ! 2016」より私好みの作品が多かったように感じられた。

この「13 à table 2017」は、2017年とタイトルにあるが、出版されたのは2016年11月。
「今更レビューをアップするのはどうかしら?」と、躊躇したが、Karine giébel氏の「J'ai appris le silence」が、とても気に入ってしまったので、あえてブログで紹介する事にした次第である。

どの作品も、チャリティー用に書き下ろしたとは思えない、良く出来た作品なのだが、「J'ai appris le silence」には「こんな優れたサスペンス・ホラーをチャリティー用に無料で書き下ろした著者は、なんて太っ腹!」と思った、これまでに読んだ短編サスペンス小説の中でも、トップクラスに入る素晴らしい作品である。  

ちなみに「13 à table 2018」も、気がついた時には近所の書店では売れ切れで、買い損ねてしまった。 しかし、入手出来たらレビューをアップするつもりなので、気長にお待ち下さい。

【こんな人にお勧め】
色々な現代フランス作家の短編小説を読みたい方。 読書を通してチャリティーに参加したい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 2.5~5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
  • 「13 a table ! 2016」
  • 著者名別索引・小説 【著者名 C】Maxime Chattam
  • 著者名別索引・小説 【著者名 F】Caryl Férey
  • 著者名別索引・小説 【著者名 L】Marc Levy
  • 著者名別索引・小説 【著者名 P・Q】Romain Puértolas

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チェコスロヴァキア人作家の幼年期の想い出を綴った珠玉の短編集

20:24

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真Comment j'ai rencontre les poissons「Comment J'ai rencontré les poissons」

著者 : Ota Pavel
分類 : 短編集、お勧め本、多読、自伝・伝記的作品、邦訳有り


原題: 「Smrt krásných srnců」
翻訳: Barbora Faure
出版社: do
本の種類 :ソフトカバー(14x1x21)
ページ数: 226頁


1930年に、チャコスロバキアのプラグで、ユダヤ人の父親とキリスト教徒の母親の間に生まれた、スポーツジャーナリストの Ota Pavel 氏の幼年~青年時代の想い出を綴った小説。

学歴はないけれど、掃除機・冷蔵庫のトップ・セールスマンであった、破天荒な父親の想い出や、少年 Ota Pavel が愛した釣りに関する想い出をセンシブルに語った27篇の短編が収録されている。

電気が通っていない村の住人に冷蔵庫を売った事すらある、エレクトロリュックスのトップセールスマンとして表彰された Ota の父親のハチャメチャぶりが伝わってくる数々のエピソード、釣りにまつわるエピソード等による軽快な風に乗り本書は幕を上げる。  しかし、Ota の成長と共に、彼らの暮らしには、ユダヤ人迫害の暗い影が差し始める。

ドイツ軍占領下の苦しい暮らしぶり、暗い少年時代を Ota が生き延びる手助けをした釣りに関する数々のエピソード、そして、戦争が終わり、強制収容所から兄たちが戻って来たものの、今度は、一攫千金を目論見、色んな事に手を出す父親の様や、共産党に肩入れした父親の振り回され、散々な目にあった Ota 少年 の苦労などが、ほのかなユーモアを交え綴られてゆく。

釣りを中心とした、水辺や自然に関する描写の繊細さと詩的さと、破天荒な父親を語る諧謔的な可笑しさが交互に顔を出し、心地よい独特なハーモニーを奏でてゆく。  
憎しみや恨みつらみを交える事なく、迫害された辛い想い出を、淡々と語る筆致からほとばしる著者の深い悲しみは、読むものの心を打たずにはいられない。

do 出版社の Ota Pavel 氏のプロフィールのページには、スポーツジャーナリストとして活躍していた Ota Pavel 氏が、小説を書くきっかけとなった出来事が記されているので、それを以下抜粋する。
Son frère Hugo a raconté ce qui s’était passé : « En 1964, Ota était reporter sportif. Â Innsbruck, il y a eu un cafouillage et l’équipe tchèque de hockey sur glace a terminé avec la médaille de bronze. Ota a rejoint les joueurs dans les vestiaires et quand il a dit que la troisième place, ce n’était pas si mal, un des joueurs a hurlé “Toi, le Juif, va te faire gazer !” Cela a vraiment touché Ota, qui a commencé à voir Hitler, Eichmann et Kaltenbrunner. Les horreurs de son enfance sont remontées à la surface. Ota a quitté les vestiaires et il a eu sa première attaque. Parti dans les collines, il a mis le feu à une grange en sauvant tous les animaux. Les Autrichiens l’ont trouvé et l’ont transporté dans un établissement psychiatrique. »、

Jusqu’à sa mort par crise cardiaque, neuf ans plus tard, le 31 mars 1973, Ota Pavel sera hospitalisé seize fois pour sa dépression. Pendant cette période, il écrivit tous ses livres, salués tant par le public que par la critique.
 
(兄 Hugo は、次のように語った。
「1964年、 Ota はスポーツジャーナリストだった。 インスブルックオリンピックで、チェコのホッケーチームは、チームワークのもつれにより、銅メダルに終わった。 Ota が、控室で選手たちと合流した時「3位だって、そんな悪くないじゃないか」と言うと、一人の選手が「おんどりゃ、ユダヤ人、ガス室で殺されろ」と、叫んだ。  それに激しいショックを受けた Ota の目の前に、ヒットラー、アイヒマン、カルテンブルンナーの幻覚が現れた。 幼年時代の恐怖が意識の表面に浮かび上が来たのだ。
控室を後にした Ota は、最初の統合失調症の発作を起こした。  丘へ上がり、納屋に火を放ち、中の動物たちを逃した。 オーストリア人達は、 Ota を精神病院へ入院させた」

その9年後の1973年3月31日に心臓発作でこの世を去るまで、Ota Pavel は、統合失調症により16回入院する。  その間に彼の全ての小説は書かれ、読者と批評家から賛辞を受けた)

裏表紙の紹介文の中に「c'est le bouquin le plus antidépressif du monde(世界一の抗うつ本)」とある。 本書の最初の部分は、そんな所もあるが、本書を最後まで読んでも、この言葉を言えるかどうか疑問である。

本書は、決して「世界一の抗うつ本」ではないが、読む人の心を揺さぶらずにはいられない、チェコ文学の名作である事は間違いない。

作品は素晴らしいし、仏語訳のタイトルは洒落ているし、本文の翻訳も見事。  これは観点の違いから来る問題だとは思うものの、本の編集の仕方が私の好みとはズレているのが、いささか残念に思えた。

【こんな人にお勧め】
釣りを愛する人。  チェコ文学を読んでみたい方。  破天荒な父親を持った、釣り好きな少年の思いをセンシブルに語った短編集を読みたい方。  多読用。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【外部リンク】
  • do 出版社の「Comment J'ai rencontré les poissons」の紹介ページ
  • do 出版社の Ota Pavel 氏のプロフィールのページ
  • 本書の邦訳「美しい鹿の死」のアマゾン・ジャパンの頁

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旧ソ連時代のシベリアのタイガの森を背景に展開するお勧め小説

17:49

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真Archipel d'une autre vie「L'Archipel d'une autre vie」

著者 : Andrei Makine
分類 : 社会派小説、冒険小説、お勧め本、多読、ソ連・ロシアが舞台

出版社: Le Seuil
本の種類:ソフトカバー(14x2x21)
ページ数:288頁


1970年代のソビエト連邦。 シベリア東部の奥地へ研修に派遣された私は、ヘリコプターに乗り、Tougour へ到着する。 私と共に、ヘリコプターから降り立った乗客の中に、現地人とは思えない一人の奇妙な男の姿があった。 彼の存在に興味を抱いた私は、こっそりと彼の後を付け、タイガの森に足を踏み入れる。  ところが私は、自分が尾行されている事に気づいた男に待ち伏せされてしまう。  男は、私がただの測量技術の研修生である事を知ると、道中を共にする事を提案する。  そして、その道すがら、Pavel Gartsev という名のその男は、自分がどうして当局から追われる身となったかを語り出す。

スターリン支配下にある1952年のソ連。  シベリア地方に駐在中のロシア軍兵士である Pavel Gartsev は、近くの収容所から脱走した脱獄犯を捕らえろとの任務を受け、4人の兵士と共にタイガの森へ向かう。  
たった一人の脱走兵を見つけて連れて帰るという容易く思われた任務だが、タイガの森を知り尽くしている脱走兵に、4人は翻弄され、任務は困難を極める・・・・・


「La Musique d'une vie」、「Testament français」 そして「La vie d'un homme inconnu」と、 Andrei Makine 氏の著作には、何度も心を動かされたが、「一番好きな Andrei Makine 氏の作品は?」と、問われたら、ためらうことなく本書を挙げる。  そんな圧倒的な感慨を与えてくれた一冊。

シベリアのタイガの森を背景に展開する冒険小説であり、スターリン支配下のロシア軍の内情を描いた社会派小説的な局面も持つ本書では、人に飼いならされていない無垢で厳しく、広大なシベリアの自然に洗われ、赤裸にされた人間達の有様が描き出されてゆく。

もっと作品の内容に突っ込んで書きたい事は沢山あるのだけど、作品の良さを真に味わうには、予備知識なしで読み始める事が不可欠。 もし、あなたが本書を読もうと思っているのなら、ネット等のレビューは、本を読み終わってからチェックする事をお勧めしたい。  そういうわけで、ストーリーについての、これ以上の説明は避ける事にする。  

シベリアを舞台にしたという点以外には、全く接点はないが、読書中に、しばしは、黒澤明監督の「デルス・ウザー」の事を思い出した。 「デルス・ウザー」は、「7人の侍」と比較すると知名度は落ちるけれど、私のお気にいりの黒澤明氏の映画である。

もう一度「デルス・ウザー」を観たいなぁ~などど考えていたら、これも本書とは殆ど共通点はないが、はるか昔に読んだ、誰かのお古の一冊のボロボロの文庫本が記憶の奥から、ひょっこりと顔を出した。  
シベリア(だったと思う)と虎が重要な位置を占める翻訳小説で、虎の赤ん坊に自らの母乳を与える女性が出て来るお話。 あらすじや登場人物どころか、著者も書名も思い出せないが、廃屋を一匹の虎がうろつくラストのみが記憶に残っている。 「あの本、もう一度読みたいなぁ~」と、思い、ネットで調べてみたら、どうやら、ニコライ・A・バイコフ著「牝虎」らしい。  仏訳は出ていないようなので、今度帰国した際に入手することにしよう。

それにしても、殆ど接点がないのにもかかわらず、今まで一度も思い出す事のなかった本の事が、記憶の底から浮かび上がってくるというのは、奇妙なものである。
真の優れた小説というのは、忘却の彼方に押しやられた記憶をもすら、蘇らせる力を持っているのかもしれない。

かなり話がそれてしまったが、
もし、あなたが、人間に与しない、厳格な自然と共に生きることを選んだ人間たちを描いた小説を読みたいとお思いならば、躊躇なく本書を手に取ってみる事をお勧めしたい。

【こんな人にお勧め】
人間に与しない、厳格な自然を背景に人間を描いた小説を読みたい方。 旧ソビエト連邦を舞台にした小説を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 M】Andreï Makine

【外部リンク】
  • Seuil 出版社の「L'Archipel d'une autre vie 」紹介ページ
  • ペーパーバック版「L'Archipel d'une autre vie」のアマゾン・フランスのページ

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1篇が2~3頁程の短いエッセイや小説が収録されている作品

17:26

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真comme une respiration「Comme une respiration...」

著者 : Jean Teulé
分類 : 短編集、エッセイ、お勧め本、多読

出版社: Julliard
本の種類:ソフトカバー(13x1.5x20.5)
ページ数:156頁


外壁に鳥が巣を作った石造りの家の住人の想いが描かれる「Cui-cui」に始まり、

地下鉄で遭遇した意外な出来事、
夏季キャンプでいじめを目にした子供、
孤独な老人の密かな楽しみ、
奇妙な名前の通り、
猟犬に追われた鹿、
自殺者を助けようとした男、
アフリカへサファリ旅行へ行った欧米人の婦人、

等など、様々な立場にある人達が遭遇した出来事などを端的に綴った作品が計40篇収録されている。

エッセイあり、掌編小説あり、ノンフィクション風な短文あり、詩あり・・・と、様々なジャンルの文章が楽しめる、お楽しみ袋的な作品である。

著者の Jean Teulé 氏は、シニックでブラックな色合い濃い小説を多く手がけている。 しかし、それらの作品と同じ著者の手によるとは信じがたい程、ほっこりとした読後感が得られる作品が多い。 
しかし、不幸な事件が多発する現在社会に、密かに息づく小さな幸せや、ほっとする一時を映し出してゆく筆致の影には、ブラックさはかなり薄められているが、他の Jean Teulé 氏の作品の根底に流れているフランス人特有のエスプリが息づいている。

殆どの作品は2,3頁、長くても5ページ半と、非常に短いので、多読用はもちろんの事、フランス語初心者の方の副読本としてお勧めしたい。

日々の辛苦を、一時、忘れさせてくれた一冊だった。

【こんな人にお勧め】
フランス的エスプリが感じられる掌編小説、エッセイを読みたい方。 多読用。 

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4.5/5
フランス語難易度 : 1.5/5(易<難)
読みごこち    : 5/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 S・T・U】Jean Teulé

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ルーマニア人作家の手による推理小説

02:54

表紙写真jeu de miroire「Jeux de miroirs」

著者 : E.O. CHIROVICI
分類 : サスペンス小説、多読、仏訳本


翻訳: Isabelle MAILLET
出版社: Les Escales
本の種類:ソフトカバー(14x2.5x22.5)
ページ数:319頁


2007年、ニューヨーク。 出版エージェントの Peter Katz は、一通の原稿を受け取る。 それは、1987年に起こり、迷宮入りになっていた大学教授殺人事件を題材にした小説の一部だった。 
この小説がベストサラーになる可能性を秘めていると感じた Peter Katz は、原稿の続きを催促するため、送り主である Richard Flynn に連絡を取ろうとするが、 Richard Flynn は肺がんのため入院中。  まもなくして Richard Flynn は死亡し、彼の遺品の中から、原稿の続きは見つからなかった。  

この小説が、Wieder 大学教授殺人事件解決の新しい手がかりを示している事を確信したKatz は、知人のジャーナリストの John Keller に、この迷宮入りの殺人事件についてについての調査を依頼する・・・


推理小説は、決して嫌いではないのだが、ゲップが出るほど読みすぎたので、最近手に取る事は余りない。  

そんな私が本書を読むことになったのは、出版エージェントに送られた原稿が、お話の出発点という事に興味を惹かれたのと(重症の活字中毒の私はこの手の本絡みの話に非常に弱い)、裏表紙の
『Découvrez le roman événement, suspense haletant, traduit dans 38 pays
(この話題作をあなたに、息を呑むサスペンス 38ヶ国で翻訳!)』
というコピーにまんまと引っかかってしまったからである。

ストーリーそのものは、定石を踏んで書かれた変哲もないミステリー。  しかし、流れるような読み心地の、非常にテンポの良い文書で書かれている上、ストーリーテリングが上手いので、それに気づく間もなく、おしまいまで一気に読み干してしまった。

読み終わった所 『le roman événement』というコピーは、かなり大げさではないかしら?というのが、私の正直な感想。  しかし、今まで読んだ事のないルーマニア人作家の小説を発見出来た、という事からすると、『le roman événement』という呼び文句は、あながち間違いでないかもしれない。

ラストの閉め方に、少しだが荒さが認められたのが、ちょつぴり残念に思われた。  

しかし、サクサク読めるミステリーなので、推理小説がお好きな方、そして多読用にお勧めできる一冊ではないかと思った。

【こんな人にお勧め】
優れた叙述法で書かれたミステリーを読みたい方。
多読用。  ルーマニア人推理小説作家の作品を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【外部リンク】
E.O. CHIROVICI オフィシャルサイト


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小説好きには堪えられない、お茶目で魅力的なフランスの小説

15:41

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真mystere de henri pick「Le mystère Henri Pick」

著者 : David Foenkinos
分類 : 風刺小説、恋愛小説、お勧め本、多読

出版社: Gallimard
本の種類: ソフトカバー(14x2x20.5)
ページ数: 286頁


アメリカ人作家 Richard Brautigan は、1971年に、出版社から拒否されたボツ原稿を保管する図書館員を主人公に小説「L'Avortement : une histoire romanesque en 1966」をしたためた。  それに着想を得、ボツ原稿を収録する Brautigan Libraly が、1990年にアメリカ、バーモント州で日の目を見た。

フランスのブルターニュ地方にある小さな町 Crozon の図書館長 Jean-Pierre Gourvec は、この Brautigan Libraly に倣い、自分が勤める図書館でも、ボツ原稿を保管する事にする。  しかし、その後 Gourvec は病に倒れる。 一人暮らしで、図書館だけが唯一の心の支えであった彼を、励まそうと考えた図書館員の呼びかけにより、Crozon の住人らは、自分が書いた原稿を図書館へ持ち込むが、まもなくして Gourvec は他界する。

パリの出版社勤務の Delphine Depero は、ヴァカンスに恋人と共に、両親の住む Crozon へやって来る。  そして、散歩の途中、二人で図書館へ立ち寄った際に、興味がてら、未刊の原稿が保管されている棚を閲覧する。  そこで手に取った「Les Dernière heures d'une histoire d'amour」と題された原稿のあまりの素晴らしさに、二人は驚愕し、この原稿を持って帰宅する。 Delphine から勧められ、ロシアの詩人 Pouchkine の最期と並行してある愛の形が描かれる「Les Dernière heures d'une histoire d'amour」を読んだ Delphine の母も、この小説に強く心を動かされる。

この原稿には、Henri Pick と署名されており、 Delphine らが調べた所、この町に住む Henri Pick は、2年前に他界した、村にあったピザレストランの主人だけだった。

Delphine は、出版の許可を得るため、Henri Pick の未亡人の元を訪ねるが、彼女は Henri が小説を書くどころか、本を読んでいる所など見たこともないと、驚きを隠させない。  しかし、長年足を踏み入れていない屋根裏の物置から、Pouchkine の詩集が見つかる。

やがて、「Les Dernière heures d'une histoire d'amour」は出版され、ベストセラーになり、静かだった Crozon には、Henri Pick のファンが押し寄せるようになる。 
そして「Les Dernière heures d'une histoire d'amour」の成功は、Henri Pick の妻や娘のみならず、多くの人間の運命を大きく変えてゆく・・・

本書の初めの方に出て来る。
Selon lui, la question n'était pas d'aimer ou de ne pas aimer lire, mais plutôt de savoir comment trouver le livre qui vous corrspond. Chacun peut adorer la lecture, à conditon d'avoir en main le bon roman, celui qui vous parlera, et dont on ne pourra pas se défaire.

彼によれば、読書が好きであるか否かという問題ではなく、その人に合う本の見つけ方を知っているかどうかという問題なのである。  心に訴えかけ、手放すことが出来なくなるような、その人に相応しい小説を手にすれば、誰でも読書が大好きになれる。

という下りを読んだだけで、がっしりと心をつかまれてしまった。

そんな小説の力を信じている人だからこそ、書くことが出来た、フィクションの持つ力を全面的に押し出した作品。  

殺人事件はないが、『どうして、本などに縁のないと、皆が思っていたピザ屋の主人がベストセラーを書き上げる事が出来たのか?』という謎を追う一種のミステリーであり、出版業界を取り巻く風刺小説であり、恋愛小説でもある、極上のエンターテイメント小説が本書である。

サクサク読めてしまう軽やかな筆致で、ユーモアをふんだんに盛り込み書かれているのだが、その軽やかな読み心地とは裏腹に、
『作品の本当の価値とは何か?』という問いや、出版業界や、読者のあり方に疑問を投げかけた、含蓄のある作品でもある。

「Une Antigone à Kandaha」は胸に楔を打ち込まれたような衝撃的な作品だったが、本書は、心をふわふわと、バラ色の雲に包んで癒やしてくれる、そんなタイプの作品。 
 
多読、気分転換の読書にピッタリな、小説好きには堪えられない、お茶目で魅力的な一冊だった。

【こんな人にお勧め】
気分転換のための読書用、多読用、お茶目で含蓄のある小説を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 F】David Foenkinos

【外部リンク】
  • Facebook の Brautigan Libraly の頁
  • アマゾン・フランスの「L'Avortement. Une histoire romanesque en 1966」の頁

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