フランス語の本の読書記録 : Archives [ 2009年05月18日 ]

フランス語の小説、漫画、エッセイ等の読書の記録

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イスラム教圏とキリスト教圏が対立した世界大戦中の近未来のフランスを舞台にしたSFサスペンス小説

20:52

表紙写真 ange abime「L'Ange de l'Abîme」

著者 : Pierre Bordage
分類 : サスペンス小説、SF小説

出版社  : Le Livre de Poche(LGF)
本の種類 : ペーパーバックー
ページ数 : 477頁


キリスト教国とイスラム教国が対立する世界大戦の真っ只中の、近未来のフランスが舞台。
『Archange Michel(ミッシェル大天使)』と呼ばれる男が支配する『Légion』と呼ばれる軍隊がフランスの政権を握り、フランスは、厳格なキリスト教理を重んじる独裁政権により支配されていた。

爆撃直前にトイレに立ったため、13歳の男の子 Pibe は、両親と妹の命を奪った爆撃から、偶然に命を免れる。 爆撃された建物に、警察が現る前に駆けつけ、盗みを働く、『Caillera(『racaille』のベルラン)』と呼ばれている不良少年・少女の組織のメンバーの一人が、瓦礫の中で茫然としている Pibe の姿に目を留め、「おまえ、まだ親はいるのか? そうでないなら、俺達のところへ来ないか、さもなければ、école phrophétique(宗教学校)行きだぜ」と、Pibeに声をかける。

『école phrophétique』の恐ろしさを噂に聞いている Pibe は、とっさに『Caillera』に加わる事を決心し、警察が現れやいなや、瞬く間に現場を離れる『Caillera』のトラックの後を追いかけ、荷台から差し伸べられた手につかまり、トラックの荷台によじ登る。  そしてトラックの荷台で、Pibe は、Stef という年上の少女と友達になる。

Pibeを受け入れたのは、『Croix du sud』という、Sangoan という名の20代の男に指揮されている、少年少女の組織だった。 新入りの歓迎リンチを受けるところを Stef に救われ、『Croix du sud』の一員の Salomé という少女から、銃器の扱いの手ほどきを受けた Pibe は、『Croix du sud』の正式メンバーと認められるためには、2週間以内に、『Légion』のメンバーもしくは警官を一人殺さなければならないと、告げられる。


9月11日のダブル・テロをきっかけとして、キリスト教圏とイスラム教圏の間で戦争が起こり、『archange Michel』という謎の男に率いられた原理キリスト教派により支配されている、悪夢の様なフランスを舞台に展開する冒険・サスペンス系SF小説。

本書は、先に紹介した「L'Evangile du Serpent」と、この後紹介する「Les Chemins de Damas」からなる『Triologie des prophétie』と題された3部作の第2弾に当たる作品という事ですが、「L'Evangile du Serpent」の後の世界を舞台にしているものの、「L'Evangile du Serpent」とは、直接的な繋がりはないので、「L'Evangile du Serpent」を読まずに本書だけ読んでも、本書を理解するのに、全く支障はありません。

主人公の Pibe が、ミステリアスな Stef という少女に連れられ、『Archange Michel』の住む、戦争の第一線であるバルカン地方へ向かう、その波乱に満ちた軌跡が、

マグレブ系の女性を母に持つフランス人家庭、
粗雑で暴力的な夫に苦しむ夫人、
イスラム教徒強制収容所に収容された少女、
16歳で徴兵され前線に送られる兵士、
Archange Michel の住むバンカーに、派遣されたアメリカ人、

等々、この地獄の様な時代に生きている多彩な人々の人生の欠片と併せて、語られてゆきます。

主人公が13歳の少年なのだけど、かなりグロテスクなヴァイオレンスシーンが出てくる、硬質なSFサスペンス。
イスラム原理主義者に支配される中東の国での、人権を無視した行政を思わせる、厳格なキリスト教に支配されている悪夢のような架空のフランス社会を、細部までしっかり構築し、迫真な筆致で描き出す事により、著者は、宗教絶対主義がもたらす弊害を読者に叩きつける事に成功しています。

2001年9月11日のテロ以来、狂信的なキリスト教信者の一部には、イスラム教が野蛮な宗教だと断言して憚る事のない人々がいますが、キリスト教の教えも、又、イスラム原理主義と同じような弊害をもたらす可能性がある事を示すと同時に、著者は、作品を通し、不寛容な、全ての形の宗教を否定するメッセージを読者に投げかけてゆきます。

本書の後に書かれた「Les Chemins de Damas」に比べると、いささか見劣りがするものの、宗教に固執するあまり、真実を見失っている者達への力強いメッセージを含有した、ヴァイオレンスとスリリングに溢れた上質のサスペンス。
J'ai déjà dit tout à l'heure, on ne peut pas changer le passé. Mais rien ne nous oblige à rester prisonniers du passé. Montre-moi ton passé : il n'existe pas. La mémoire, c'est le piège, c'est la force qui nous chevauche et nous ramène sans cesse à la case départ.
(さっきも言ったけど、過去を変える事は出来ない。 だからといって過去にいつまでも囚われていなきゃいけないわけじゃない。 君の過去を見せてよ。 そんなの存在しないじゃないの。 記憶は罠、私達にまたがって、絶えず出発点へ連れ戻してゆく力なのよ)

等の名言があちらこちらにちらばめられており、本書の魅力を倍増させています。

比較的読みやすいフランス語で書かれていましたが、俗語、略語、造語などが出てくるので、フランス語難易度は難しめになっています。

【こんな人にお勧め】
サスペンス小説が好きな方。 SFが好きな方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち    : 3/5(難<易)

【関連記事】
著者名別索引・小説 【著者名 B】Pierre Bordage

2010年5月18日に一部加筆修正。2013年4月23日にレイアウト修正。

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