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母親と二人暮しの、高校生の Franck は、学校になじめず、仲間と町を無為にうろついたり、盗みをしたりして暮らしていたが、食料品店のおやじ Khader から、店で働かないかと誘われ、Khader の店で働くことになる。 ある日、ガールフレンドと共に、Khader の家に招かれた折に、1人の男がイスラム教の祈りを捧げているのを見、その静穏な様子に心を打たれた Franck は、イスラム教に興味を持ち、バスルームでこっそりとお祈りをするようになる。
ある日、通りで友達が警官からメッチャクチャに殴られている現場に通りかかった Franck は、友人を救うため、二人の間に割り入り、警官を、警棒で殴りつけたため、刑務所に送られてしまう。
受刑中に、Franck は、刑務所に収容されていた過激派のイスラム教徒達と友達になり、彼らの仲間になる。 刑務所に面会に来た Khader は、
「イスラム教は愛であり、寛容でり、憎悪でも恐怖でもない」
と、Franck の信じているイスラム教が、イスラムの本当の教えから離れている事を指摘するが、すっかり洗脳されてしまった Franck は、聞く耳をたない。 そして、刑期を終え、娑婆に出た Franck は、アフガニスタンにあるイスラム過激派の秘密訓練所へと、旅立ってゆく。
アフガニスタンのカブールの北部、Salt Pit にあるCIAの秘密刑務所に収容され、拷問を受ける現在の Franck の姿と、彼の過去を、交互に語りながら、母親思いの普通のフランス人青年が、どうしてイスラム原理主義系テロリスト専用のCIAの秘密刑務所に収容される羽目になってしまったのか、その経過を紐解くと同時に、CIAにより、イスラム過激派テロリスト容疑者用刑務所で行われている、想像を絶した非人間的な尋問の方法を告発した、白黒漫画。
本書のカバーに記載されている説明によると、ジャーナリストである、シナリオ担当の Sacha さんが、CIAの秘密刑務所のルポのための取材をしている最中に、イスラム教に改宗したフランス人との出会った事により、このフィクションのアイデアが芽生えたとの事です。
毎日を無為に過ごしている若者が、イスラム教と出会い、自分の人生の心の支えを見つけたものの、不幸な経緯から、刑務所へ送られてしまい、そこで、イスラム原理主義者達の洗脳を受け、過激派テロに同調してゆく過程及び、CIAの秘密刑務所での拷問の様子には、フィクションとはいえ、メディアにより告発されている、事実に基づいています。
フランスの刑務所が、イスラム教原理主義者らのリクルートの場になっている、という恐るべき事実、
イスラム過激派テロリスト達の主張するイスラム教は、本来のイスラム教からかけ離れているものだという明白な事実、
騙されてイスラム過激派テロリストの仲間になってしまい、組織についてたいした事は知らず、テロ行為は何も行っていないにもかかわらず、非人間的な拷問を受けてしまう・・・
など、メディアでもしばし取り上げられている、イスラム過激派テロリストを語る上で、重要なポイントをしっかりと抑えてある、ジャーナリスティックな視線が感じられるストーリーとなっています。
白黒のグラフィックには、優美ではないものの、リアリティーと、主人公の感情表現に長けた、力強さが感じられます。 又、流れるような読み心地を提供してくれる、非常に読みやすい漫画でした。
ただ、CIAの刑務所でのイスラム過激派テロリスト容疑者達が受けた拷問の様子にアクセントを置いて作品が構成されているためか、穏健なイスラム教賛同者であつた主人公が、どうして過激派へと変貌をしていったのか、そのプロセスにも力を入れて、詳しく描いてもらいたかったという、不満が残りました。
下記の出版社の本書紹介ページでは、本書の一部を見ることが出来ます。 (表紙写真の下の『UN APERCU...』の横の矢印をクリック!)
http://www.enfantsrouges.com/Salt-pit.html
【こんな人にお勧め】
原理主義のイスラムテロについて知識を深めたい方。
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価 | : | 4/5 | |
ストーリー | : | 4/5 | |
グラフィック | : | 3/5 | |
ストーリーボード | : | 4/5 | |
フランス語難易度 | : | 2/5 | (易<難) |
読みごこち | : | 5/5 | (難<易) |
2010年9月27日に一部加筆修正。
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