23:32

著者 : Martin Page
挿絵 : Quentin Faucompré
出版社 : Editions de l'Olivier
本の種類 : ソフトカバー(14x2x21)
ページ数 : 255頁
佐々木マキさんのイラストを、ほのかに連想させる白黒のイラストが添えられた、シュール、シニックで、ブラックな小説が収録されている短編集。
「Le contraire d'un phasme」
自宅の居間で、目覚めた Raphaël が、ひどい二日酔いに苦しみながら、昨夜の事を思い出そうとしていると、玄関のドアが開き、一人の男が入ってくる。 驚きを隠せない Raphaël に、男は、自分は警官であり、殺人事件の捜査のため、その現場へやって来たと告げる。
「La mauvaise habitude d'être soi」
Philippe が、カフェのテラスでくつろいでいると、彼と全く同じ服装をした男が彼に、話しかけ・・・
「L'homme qui était une espèce en voie de disparition」
舞台装飾のデザインの仕事をしている Tristan の元へ、二人の男がやって来る。 生物化学ラボラトリーの館長と、自然博物館の館長だという二人は、 Tristan に、彼は、homo sapiens insularis という種の遺伝子を持つ、最後の人種だと告げる。
「Vocation pour une occupation perpétuelle」
犯罪者として採用されるための、厳しい面接を受ける、志願者と雇用係の対話。
「A l'intérieur de moi-même」
自分の中に引越しした男の話。
「La fuite animale」
ある日、突然この世から全ての昆虫が姿を消し・・・
「Le monde est une tentative de meurtre」
突然身の回りにある、危険に敏感になり、自分を取り巻く全ての危険物を排除し始めた男の話。
現代社会を風刺した上記の7つの短編が収録されており、どの短編も、良くこしらえられているのですが、作品の押さえ所が、私の感性のツボから、ちょっとズレているため、心から楽しめなかった作品もかなりありましたが、これは、完全に好みの問題だと思います。
そんな中、絶滅危惧種の保護を風刺した「L'homme qui était une espèce en voie de disparition」と、現代アートを皮肉った「Le monde est une tentative de meurtre」は、なかなか面白いと思いました。
会話が多くて、読みやすいフランス語で書かれているので、シュールで、ブラックな小説が好きな方の多読用にお勧めしたい一冊です。
【こんな人にお勧め】
シュールで、ブラックで、現代社会を風刺した短編小説を読みたい方。 多読用。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 3/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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2013年6月5日にレイアウト修正。
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- 小説・エッセイ・ノンフィクション
- フランス語レベル中級~上級向け
♥ Coup de coeur ♥
「Le jeu de l'ange
」
著者 : Carlos Ruiz Zafon
翻訳 : François Maspero
出版社 : Pocket
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 666頁
1920年代、スペイン、バルセロナ。 やくざで、学のない父親と二人で暮らしていた David Martin 少年は、父親に隠れて、Sempere & Fils 書店の主人に、借りた本を読み、文学への夢を膨らませる。
その後、Martin は、La Voz de la Industria 誌という新聞社に、使い走りとして、勤務するようになり、17歳の時に、日曜版の連載小説の穴埋めに書いた読み物があたり、連載小説を執筆するようになる。 その後、大衆向けの読み物の出版を手がける Barrido & Escobillas 社と、契約を結び、サスペンス作家としてスタートを切った Martin は、かつてから、気になっていた、住む人のいない、彼が密かに『Tour』と呼ぶ、屋敷に移り住む。
Martin が Ignatius B. Samson の筆名で執筆したサスペンスは、ヒットし、出版社は、次回作を書くよう、せかすものの、出版社の期待する作品は、自分が本当に書きたいものでないため、David Martin の筆は進まない。 そんな Martin に、社長は、9ヶ月の猶予を与えるから、その間に自分の書きたい小説を書くようにとうながす。
その頃、Martin は、パリで出版社を経営する Andres Corelli という謎めいた男から、法外な原稿料と引き換えに、ある本の執筆を依頼される。
世界的な大ヒットおさめた「L'ombre du vent」(原題 : La sombra del viento、 邦題 : 風の影)の後、発表された、カルロス・ルイス・サフォン 氏の『忘れられた本の墓場』シリーズ第2弾。 「L'ombre du vent」の流れを汲んでおり、「L'ombre du vent」の舞台だったSempere & Fils 書店と本の墓場が登場するものの、1920年のバルセロナを舞台にしている本書は、時間的には、「L'ombre du vent」より前に位置し、「L'ombre du vent」の主人公だった Daniel の父親と祖父が、主要人物として登場する「L'ombre du vent」の後日談ならぬ、前日談(?)にあたる作品です。
父親に隠れ、Sempere & Fils 書店の店主から借りた本を読み、文学の夢を膨らませ、Pedro Vidal という名士に目をかけられ、作家としてのスタートを切った、稀な文才を持つ主人公が、思いがけない運命に巻き込まれてゆく様、主人公の心揺れる想い、憤り、迷い、そして絶望等が、情緒に満ちた、流れるような筆致描かれてゆく本書も、「L'ombre du vent」と同様、文体の美しさと、ストーリーテラーの両方の魅力を味わえるオールマイティーな小説です。
前作に比べるとファンタスティック的な要素が強くなっており、サスペンス的な部分には、一部あいまいな箇所があるためか、一部の「L'ombre du vent」ファンには、今ひとつ評判が良くない様ですが、その手の小説が大好きな私には、前作に負けず劣らず、大満足して本を閉じることの出来た、読み応えバッチリの一冊でした。
【こんな人にお勧め】
【きわめて個人的な本の評価】
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著者 : Carlos Ruiz Zafon
分類 : サスペンス小説、ファンタスティックス系小説、仏訳本、スペイン文学、多読、お勧め本
翻訳 : François Maspero
出版社 : Pocket
本の種類 : ペーパーバック
ページ数 : 666頁
1920年代、スペイン、バルセロナ。 やくざで、学のない父親と二人で暮らしていた David Martin 少年は、父親に隠れて、Sempere & Fils 書店の主人に、借りた本を読み、文学への夢を膨らませる。
その後、Martin は、La Voz de la Industria 誌という新聞社に、使い走りとして、勤務するようになり、17歳の時に、日曜版の連載小説の穴埋めに書いた読み物があたり、連載小説を執筆するようになる。 その後、大衆向けの読み物の出版を手がける Barrido & Escobillas 社と、契約を結び、サスペンス作家としてスタートを切った Martin は、かつてから、気になっていた、住む人のいない、彼が密かに『Tour』と呼ぶ、屋敷に移り住む。
Martin が Ignatius B. Samson の筆名で執筆したサスペンスは、ヒットし、出版社は、次回作を書くよう、せかすものの、出版社の期待する作品は、自分が本当に書きたいものでないため、David Martin の筆は進まない。 そんな Martin に、社長は、9ヶ月の猶予を与えるから、その間に自分の書きたい小説を書くようにとうながす。
その頃、Martin は、パリで出版社を経営する Andres Corelli という謎めいた男から、法外な原稿料と引き換えに、ある本の執筆を依頼される。
世界的な大ヒットおさめた「L'ombre du vent」(原題 : La sombra del viento、 邦題 : 風の影)の後、発表された、カルロス・ルイス・サフォン 氏の『忘れられた本の墓場』シリーズ第2弾。 「L'ombre du vent」の流れを汲んでおり、「L'ombre du vent」の舞台だったSempere & Fils 書店と本の墓場が登場するものの、1920年のバルセロナを舞台にしている本書は、時間的には、「L'ombre du vent」より前に位置し、「L'ombre du vent」の主人公だった Daniel の父親と祖父が、主要人物として登場する「L'ombre du vent」の後日談ならぬ、前日談(?)にあたる作品です。
父親に隠れ、Sempere & Fils 書店の店主から借りた本を読み、文学の夢を膨らませ、Pedro Vidal という名士に目をかけられ、作家としてのスタートを切った、稀な文才を持つ主人公が、思いがけない運命に巻き込まれてゆく様、主人公の心揺れる想い、憤り、迷い、そして絶望等が、情緒に満ちた、流れるような筆致描かれてゆく本書も、「L'ombre du vent」と同様、文体の美しさと、ストーリーテラーの両方の魅力を味わえるオールマイティーな小説です。
前作に比べるとファンタスティック的な要素が強くなっており、サスペンス的な部分には、一部あいまいな箇所があるためか、一部の「L'ombre du vent」ファンには、今ひとつ評判が良くない様ですが、その手の小説が大好きな私には、前作に負けず劣らず、大満足して本を閉じることの出来た、読み応えバッチリの一冊でした。
【こんな人にお勧め】
「L'ombre du vent」のファン。 スペイン文学に興味のある方。 読み応えのある小説をお探しの方。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 4.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 3/5(難<易)
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 3/5(難<易)
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- 「Le jeu de l'ange」公式サイト
2013年3月22日にレイアウト修正。
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- 小説・エッセイ・ノンフィクション
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著者 : S.Onfroy, C.Grossetête他
出版社 : Fleurus
本の種類 : ソフトカバー(19x3x21)
ページ数 : 371頁
子供に寝る前、読み聞かせるのに最適な、2~3ページの掌編創作童話を集めた、全頁カラーのイラスト入りの児童書。 親指小僧とか、シンデレラとかいった古典的な童話は、ひとつも入っていないけれど、男子でも女の子でも楽しめるバラエティーに富んだフランスの創作童話が、全部で142篇収録されています。
巻末の目次のタイトルを見て、子供が興味を持ちそうなお話を選んだり、ぱらぱらと本をめくって、カラーイラストが子供の目を引いたお話を選んだりする事も出来ますが、この本が他の童話集と違うのは、本の巻頭についている、ジャンル分けの表になっている目次です。
4ページにわたる、この表は、
『面白い話』『世界の国の物語』『冒険物語』『ファンタスティック系のお話』『食べ物のお話』『怖い話』『眠りにつくための話』『夢みるためのお話』
というお話の種類の項目が横軸に、
『魔法使い』『人魚やお魚』『巨人・お化け』『妖精』『王子様とお姫様』『学校の先生』『動物』『ロボット』『スーパーヒーロー』『海賊・ならず者』『小学生』『スポーツ選手』『発明家と冒険家』
等のお話の登場人物の項目が縦軸になっているので、
『魔法使い』の出てくる『面白いお話』、とか『先生』が出てくる『怖い話』、なんていう風に、読む話を検索する事が出来るので、とっても便利。
幼稚園に通う子供でも、楽に理解出来るような、とても平易なフランス語で書いてあり、挿絵を一緒に見ながら、ゆっくり読んでも、数分で読み終わってしまう、短いお話だけが収録されているので、忙しくて、なかなか、夜、子供に本を読んであげる時間が取れない親御さんや、子供が苦手だけど、子供の相手をしなくてはならない羽目になってしまった人に、うってつけの一冊だと思いました。
総371ページあるので小さい子供が手で持つのには重すぎる、かなり分厚い本なので、子守代わりや持ち歩きするには、あまり向いていないけれど、この一冊で当分の間、子供に読み聞かせるお話のストックが確保できる事を思うと9.90ユーローは、かなりお買い得。
又、とても平易なフランス語で書かれた、短いお話ばかりなので、童話好きのフランス語初心者の方の副読本にもお勧めしたい一冊です。
【こんな人にお勧め】
子供に、夜寝る前に話すお話をお探しの方。童話の好きな方。フランス語初心者。多読用。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 4/5
フランス語難易度 : 1/5(易<難)
読みごこち : 5/5(難<易)
フランス語難易度 : 1/5(易<難)
読みごこち : 5/5(難<易)
2013年6月5日にレイアウト修正。
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- 小説・エッセイ・ノンフィクション
- フランス語レベル初級向け

著者 : Philippe Bertrand
分類 : 歴史漫画
原作 : Jean Teulé
出版社 : Delcourt
本の種類 : ハードカバー(19x1x26)
ページ数 : 112頁
美しいフランソワーズ・アテナイス・ドゥ・モルトゥマールに恋し、結婚したものの、贅沢好きの妻を満足させるだけの資産のない、モンテスパン侯爵は、戦争で名を上げようと、戦地に赴くが、事は思ったように運ばず、借金はかさむばかり。 そんな折、男爵夫人に見込まれた彼の妻は、王妃の侍女となり、王宮に出入りするようになり、王の目に留まり、王の寵姫となる。 妻を通して王の寵愛を受けるのを狙う貴族達から、羨望の目で見られいるにもかかわらず、深く妻を愛するモンテスパン侯爵の苦悩は深まるばかりだった。
ルイ14世の寵愛を受けた、モンテスパン侯爵夫人の夫、ルイ・アンリ・ドゥ・パルダヤン・ドゥ・ゴンドラン、モンテスパン侯爵 の苦悩に満ちた生涯を綴った、Jean Teulé 氏の小説「Le Montespan」の漫画化。
実は、私、 Jean Teulé 氏の原作の小説も手に取った事があるのですが、続出するかなり露骨な描写に、げんなりし、途中で挫折してしまいました。 そんなわけもあって、その漫画化である本書も、ちょっと構えて読み始めたのですが、原作の生々しい部分が見事に浄化され、漫画化されているのに、驚かされました。
可愛いくデフォルメされた作中人物に、シンプル化された背景がセンス良く添えられたグラフィックは、原作からは、想像出来ない程、さらっとしていて、お洒落。 当時の貴族達の、男女関係を、あけすけに描写し、心の中に踏み込んだ原作にある、むき出しの存在感とは、対極的な場所に位置する作品です。
又、さらっと描かれているようにも見えるのですが、作中人物の衣装は、当時の銅版画を資料にしていたりと、細部にこだわった、なかなか凝った造りになっています。
とにかく私は、下品な下りがかなりある、生々しいストーリーを、よくもここまで、お洒落な感興のある漫画に仕立て上げた事に驚かされました。
原作に忠実で、かつ原作に振り回されず、愛する妻を王に取られた一人の男の苦悩を、ほのかな諧謔性を交え、哀愁たっぷりに漫画化したところに、作画担当の Philippe Bertrand 氏の類稀なセンスが感じられた一冊でした。
【こんな人のお勧め】
ルイ14世を取り巻くフランス宮廷を舞台にした漫画を読みたい方。
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価 : 4/5
ストーリー : 4/5
グラフィック : 3.5/5
カラーリング : 4/5
ストーリーボード : 3.5/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち : 3.5/5(難<易)
ストーリー : 4/5
グラフィック : 3.5/5
カラーリング : 4/5
ストーリーボード : 3.5/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち : 3.5/5(難<易)
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2013年6月5日にレイアウト修正。
♥ Coup de coeur ♥
「Un hiver avec Baudelaire
」
著者 : Harold Cobert
出版社 : Editions Héloïse d'Ormesson
本の種類 : ソフトカバー(14x2x21)
ページ数 : 120頁
ブルジョワ階級出身の妻から、家を追い出された Philippe は、ホテル住まいをしながら、アパートを探そうとするが、事は思ったように運ばない。 おまけに、同僚に客を横取りされた事に腹を立てた Philippe は、雇用期間が残っているのにもかかわらず、短期採用されたセールスマンの仕事を辞めてしまう。 そして、それから、相次ぐ不幸な出来事に見舞われ Philippe は、とうとう路上で、生活する羽目になる。
妻と、愛する娘と共に、ごく普通の生活を送っていた一人の男が、不測の出来事の連鎖により、底辺まで落ちてしまう様と、彼の窮地を救ってくれた犬や、犬がきっかけで知り合った人たちの助けにより、彼が再生してゆく過程をセンシブルに描いた小説。
思いがけない不幸な出来事の連鎖に、打ちのめされ、生気を喪失した Philippe が、下へ下へと流され、落ちぶれてゆく様や、緊急宿泊センターのおぞましさ、野宿場所の縄張り争い、などなど、路上生活の過酷さを、センチメンタルに陥らず、かといって糾弾調にもならない、センシブルな筆致で描いた前半も、それなりに読ませるのですが、この本の醍醐味は、その後半にあります。
階段を踏み外し、真っ当な社会から、転げ落ち、路上生活という深くて暗い淵に落ちてしまった主人公の前に、突然現れた一匹の犬と、彼の絆を、詩情たっぷりに描いた後半には、胸が熱くなりました。
路上生活者という、極めて暗いテーマを扱っており、現実にしっかり目を据えているにもかかわらず、心に染み入る、現代の寓話的な趣のある、魅力的な小説でした。
【こんな人にお勧め】
【きわめて個人的な本の評価】
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2013年3月22日にレイアウト修正。

著者 : Harold Cobert
出版社 : Editions Héloïse d'Ormesson
本の種類 : ソフトカバー(14x2x21)
ページ数 : 120頁
ブルジョワ階級出身の妻から、家を追い出された Philippe は、ホテル住まいをしながら、アパートを探そうとするが、事は思ったように運ばない。 おまけに、同僚に客を横取りされた事に腹を立てた Philippe は、雇用期間が残っているのにもかかわらず、短期採用されたセールスマンの仕事を辞めてしまう。 そして、それから、相次ぐ不幸な出来事に見舞われ Philippe は、とうとう路上で、生活する羽目になる。
妻と、愛する娘と共に、ごく普通の生活を送っていた一人の男が、不測の出来事の連鎖により、底辺まで落ちてしまう様と、彼の窮地を救ってくれた犬や、犬がきっかけで知り合った人たちの助けにより、彼が再生してゆく過程をセンシブルに描いた小説。
思いがけない不幸な出来事の連鎖に、打ちのめされ、生気を喪失した Philippe が、下へ下へと流され、落ちぶれてゆく様や、緊急宿泊センターのおぞましさ、野宿場所の縄張り争い、などなど、路上生活の過酷さを、センチメンタルに陥らず、かといって糾弾調にもならない、センシブルな筆致で描いた前半も、それなりに読ませるのですが、この本の醍醐味は、その後半にあります。
階段を踏み外し、真っ当な社会から、転げ落ち、路上生活という深くて暗い淵に落ちてしまった主人公の前に、突然現れた一匹の犬と、彼の絆を、詩情たっぷりに描いた後半には、胸が熱くなりました。
路上生活者という、極めて暗いテーマを扱っており、現実にしっかり目を据えているにもかかわらず、心に染み入る、現代の寓話的な趣のある、魅力的な小説でした。
【こんな人にお勧め】
路上生活者を主人公にした小説を読みたい方。 多読用。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 4/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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2013年3月22日にレイアウト修正。
本ブログの2008年ベストセレクション第1位に輝いた、Vents d'Ouest 出版社から出版されている、Christophe Chabouté 著「Tout seul 」の邦訳が「ひとりぼっち (BDコレクション)
」のタイトルで、 国書刊行会から出版されました。
現在、私が一番好きなBD作家、クリストフ シャブテ氏の作品の中で、最も完成度が高いと、私が評価している作品。 テキストを最大限に省いた、無声映画を思わせる、詩的で、哲学的で、諧謔的で、そして、ほんわかとしたやさしさが感じらる、フランス漫画の傑作です。 日本の漫画とは一味違った、詩的な味わいのある作品なので、漫画が好きな方は勿論の事、漫画はチョットと、敬遠気味の方にも、お勧めしたい一冊です。 この作品がヒットして、クリストフ シャブテ氏の他の作品も、日本に紹介される事を切に願っています。
【関連記事】
2008年ベストセレクション・漫画編
「Tout seul 」
著者名別索引・BD 【著者名 C】
現在、私が一番好きなBD作家、クリストフ シャブテ氏の作品の中で、最も完成度が高いと、私が評価している作品。 テキストを最大限に省いた、無声映画を思わせる、詩的で、哲学的で、諧謔的で、そして、ほんわかとしたやさしさが感じらる、フランス漫画の傑作です。 日本の漫画とは一味違った、詩的な味わいのある作品なので、漫画が好きな方は勿論の事、漫画はチョットと、敬遠気味の方にも、お勧めしたい一冊です。 この作品がヒットして、クリストフ シャブテ氏の他の作品も、日本に紹介される事を切に願っています。
【関連記事】
2008年ベストセレクション・漫画編
「Tout seul 」
著者名別索引・BD 【著者名 C】

ストーリー : Corbeyran & Cécil
作画・彩色 : Cécil
出版社 : Les Humanoïdes Associés
本の種類 : ハードカバー(24x1x32)
ページ数 : 48頁
Zebeline の行方と、Gustave の宝の手がかりを求め Eustache は、Brûckの屋敷へ、忍び込もうとするが、Mouche は、断固として首を横に振る。 それなら、俺一人で行くという Eustache の決心に根負けした Mouche は、勇気を絞り、再び Brûck の屋敷に足を踏み入れたのだが・・・
待ちに待った「Le réseau Bombyce」完結編。 いつまで経っても第3巻が出版されないので、もしかしたら、このシリーズ人気がないので、打ち切りになったのかしら?と、心配していたので、喜び勇んで、本書を手に取りました。
並外れた細密で優美なグラフィックに魅かれた読み始めたシリーズなので、今回もあの、素晴らしいグラフィックが楽しめるかと、期待して読み始めたのですが、その期待が完全に、報われる事は、ありませんでした。
1,2巻の雰囲気を再現した、暗めの彩色や背景の描き方には、賛辞を送りたいと思うものの、あまりに凄すぎた1,2巻と比較してしまうと、この第3巻のグラフィックは、少々、見劣りしてしまうような気がしました。
そして、ストーリーは、無理にお話を終わらせようとして書いたのでは・・・と、思ってしまった、お粗末さ。
シリーズを尻切れトンボにせずに、なんとか終わらせようとして、無理に書いた一冊であるように感じてしまったのは、私だけでしょうか?
【こんな人にお勧め】
グラフィックが素敵な漫画を読んでみたい方。
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価 : 2/5
ストーリー : 1/5
グラフィック : 4/5
カラーリング : 5/5
ストーリーボード : 3/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち : 3.5/5(難<易)
ストーリー : 1/5
グラフィック : 4/5
カラーリング : 5/5
ストーリーボード : 3/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち : 3.5/5(難<易)
【関連記事】
- 「Le réseau Bombyce, Tome 1 : Papillons de nuit」
- 「Le réseau Bombyce, Tome 2 : Monsieur Lune」
- 著者名別索引・BD 【著者名 C】Eric Corbeyran
2010年10月11日に一部加筆修正。 2013年4月18日にレイアウト修正。
04:41

著者 : Nan Aurousseau
出版社 : Stock
本の種類 : ソフトカバー(14x2x22)
ページ数 : 235頁
Proxo 社のビルの44番事務所へ、鍵を受け取りに来た、Marcel Tous は、アルコールを摂取し過ぎた為か、迷路の様な、ビルの地下で、迷子になってしまう。 「くそう、もう絶対酒なんか飲まない」と、罵りながら、なんとか、この地下から、抜け出そうとする Marcel Tous の姿と、彼の若い妻 Brigitte と、彼らの別荘の近くに住んでいる作家の Bob の姿が交差する迫真の小説。
おしまいのページまで読み終わって、頭に浮かんだのは、
「Un bouquin HORRIBLEMENT bien écrit」という言葉。
そして、この本についてのレヴューを書こうとして、感じるのは、この本を読むときの楽しみを殺ぐなわずに、本書の魅力を説明することの難しさ。
主人公が、迷路の様なビルの地下で、迷子になり、理不尽にも、かなりグロテスクな拷問を受ける下りに、気分が悪くなり、読むのを中断しようと思いましたが、事の顛末を知らないままだったら、もっと後気味の悪い思いをするような気がしたので、なんとか、読み続ける事ができましたが、読み終えてから、最後まで読んでよかった、と思った秀作です。
定年退職した夫と、20歳も年下の若い妻のすれ違いや、思い違いに、隣人の男の妄想が重なり、狂気へ向かってゆく様と、人間の内の葛藤を迫力タップリに表現した、読み方によっては、ホラー小説、ファンタスティック小説、心理小説、サスペンス小説、とも取れる、ジャンル付けの難しい作品。 グロテスクな下りやエロチックなシーンに事欠かず、すらすら読めてしまうという、エンタメ小説の様な殻をかぶっているけれど、その中には、軽く読み流すこと事の出来ない、人間に対する鋭い洞察を伺うことが出来ます。
本書は、長い間配管工として働く傍ら、小説を書き溜め、54歳の時に出版した「Bleu de chauffe」で、一気に有名になったNan Aurousseau 氏の手による「Bleu de chauffe」、「Le ciel sur la tête」、「Du même auteur」に続く、最新作(2010年11月現在)なのですが、この人程、作品を書くたびに、作品の完成度が高くなってゆく作家には、いままでお目にかかった事がありません。
50歳を過ぎても、これ程、進化する事ができるとは!
『50は不惑』、なんていう言葉が、裸足で逃げ出すような、勢い良く成長してゆく若々しさには、驚かされると同時に、意気をかき立てられます。
構成の巧みさで、ページから気迫がほとばしる、良く出来た小説なのですが、かなりグロテスクな下りがあるので、その手の描写が苦手な方は、ご注意を。
【こんな人にお勧め】
人間が描けている、迫力タップリで、独創的なホラー・ヴァイオレンス小説を読みたい方。 50過ぎたら人生終わりと、諦めムードの方。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 4/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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2013年5月7日レイアウト修正。
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- ファンタスティック系小説
18:56

ストーリー : Jean DUFAUX
作画・彩色 : Joëlle SAVEY
出版社 : Glénat
本の種類 : ハードカバー(24x1x32)
ページ数 : 58頁
1850年パリ。 長く辛い旅を終え、バルザックは、妻の Hanska 伯爵夫人と共にパリの自宅へ帰ってくるが、邸宅の鍵を預かっている召使の姿は見当たらない。 彼の召使は、突然狂気の発作を起こし、憲兵隊に、連れ去れて行かれたと、通りにいた男から告げられ、落ちた鍵を拾った人の住所を書いた紙切れを渡されたバルザックは、妻を知人宅へ向かわせ、一人で、その住所へ向かったのだが・・・
あの文豪バルザックを主人公とした、現実と空想が交差する、独創的な漫画。
人物の描き方にかなりクセがある上、作中人物の描き分けのあいまいさなど、戸惑いを感じる所もあるものの、当時のパリの上流社会の雰囲気が十二分に伝わってくる、細いペンタッチの、中々達者なグラフィックで彩られた作品です。
調度品や、室内装飾の描写は、勿論の事、建物のヒビや、石畳など、細かい所まで目が行き届いている、細密な背景の描き方には、目を奪われました。
又、古典的なフランス漫画手法により、漫画化されている作品ですが、読み心地は、それ程悪くはありませんでした。
自宅の鍵を求めパリを歩き回るバルザックを中心に展開するストーリーは、『Fantastique』で、『Fantastic』。 バルザックの作品は、遥か昔に読んだけど、すっかり内容を忘れてしまっていた私は、もう一度、彼の作品を読み直したくなってしまいました。 バルザックの作品を読んだ事がなくても、楽しむ事は出来ますが、バルザックの著作を読んでから、読むと、楽しみが倍になる、そんなオツな、ストーリーの漫画なので、バルザック・ファンなら、かなり楽しめるのではないかと思われた一冊です。
【こんな人にお勧め】
バルザックが好きな人。 バルザックの作品を読んだ事のある人。 一練りしたストーリーのBDを読んでみたい方。
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価 : 4/5
ストーリー : 5/5
グラフィック : 3/5
カラーリング : 2.5/5
ストーリーボード : 3/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
ストーリー : 5/5
グラフィック : 3/5
カラーリング : 2.5/5
ストーリーボード : 3/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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2013年6月5日にレイアウト修正。

著者 : Augustin d' Humières
出版社 : Grasset & Fasquelle
本の種類 : ソフトカバー(13x2x21)
ページ数 : 200頁
『Banlieu』と呼ばれている、フランスのパリ近郊の、治安の悪い地域にある高校で教鞭を執る教師の手による、ノンフィクション的なエッセイ集。
『Banlieu』の教師がその体験を綴ったエッセイは、フランスメディアで、かなりもてはやされているのですが、本を読む以前に、テレビやラジオでの著者のインタヴューを見たり聞いたりしただけで、そのあまりに恣意的な見解にげんなりしてしまい、とてもじゃないけど、本を読む気にはならないことが良くあります。 だから、先日図書館に行った時、あまり読みたい本がなかったので借りてきた本書も、イヤになったら途中で止めようと、思い、読み始めたのですが、結構面白くて最後まで読んでしまいました。
エリート大学を卒業し、古典文学の『agrégé』(教授資格)を習得した、高学歴の著者が、初めて正式採用されたのは、『Banlieu』にある、モデル校に指定された、フランスの高校のバカロレアの習得率最下位の問題校。 そこで、頭の固い校長や、好意的とは言えない同僚、どのクラスも同じレベルに保つという反エリート主義のため、授業を邪魔する事しか頭に無い問題児が各クラスにいるので、真面目に勉強したい学生が転校せざるを得ない状況、などなど、数々の困難を乗り越え、著者は、ギリシャ語の授業と、シャークスピア劇のサークルを通し、有意義な教育を実践しようと試みます。
現在のフランスの高校教育のカリキュラムの中で、文学専攻のエリート専用の、最も実用性のない科目、と言われているギリシャ語の教育をおちこぼれ高校で推進してゆくというのは、一部の人からすれば、向こう見ずとも取れる企て。 しかし、ギリシャ語は、文学のみならぬ、人間形成に大きく貢献する事が出来る科目であると、著者は、主張します。
実際、本書には、サルコジー大統領の
Vous avez le droit d'étudier les langues anciennes. Mais pourquoi le contribuable devrait payer pour ça ?という発言と、アインシュタインの
(古語を勉強する権利はあるけれど、どうしてそれを納税者が負担しなくてはならないのだろうか?)
Plus je lis les auteurs grecs, plus je me rends compte que rien de semblable au monde n'a existé depuis. Comment une personne éduquée peut-elle rester à l'écart des Grecs ? J'ai toujours été bien plus intéressé par eux que par la science.というインタビューの抜粋が、引用されています。
(ギリシャ人の作品を読めば読むほど、それ以後、世界でそれに匹敵するようなものは、存在したためしがないという事に気づく。 どうしたら、教育を受けた者が、ギリシャ人を知らずにいられるのだろうか? 私は、科学より、ずっと関心を持っていた)
3ヶ月やってみてイヤなら止めていいいいという、お試し制を実施したり、同じ地区にある中学へ、ギリシャ語の授業のアピールに卒業生と出かけて行ったり、など、工夫を重ねた末、ギリシャ語のクラスは、同僚の嫉妬を買ってしまうほどの人気科目になってしまいます。
生徒達のギリシャ語の授業に対する感想や、反応が、あまり盛り込まれていなかったりする所や、もっと客観的な見解も入れてもらいたかったなどなど、不満に思うところは、かなりあるものの、ギリシャ語教育は、一部のエリート専用の学問でないという事を雄弁に語っているところが、他の『Banlieu』物のエッセイ集と、一線を画していると思いました。
本書を通じて、何を教えるのかより、どう教えるのかにより、教育の価値が決まるという、以前から抱いていた見解が、正しかった事を再認識しましたね。
まあ、本書を読んでから、私も、しっかり感化されてしまい、本棚でホメロスの「Odyssé」を探してしまいました。(息子が持っていってしまったらしく、本棚から紛失していました)
一章の長さも短めで、比較的読みやすいフランス語で書かれているのですが、フランス人向けの本なので、フランスの時事や、フランスの教育制度に、深い知識がないと分かりにくい下りが、かなりあるので、フランス語難易度は、『難しめ』の(4/5)に、なっています。
【こんな人にお勧め】
ギリシャ文化、フランスの高校及び教育制度に興味のある方。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 2.5/5
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
2013年6月5日にレイアウト修正。