フランス語の本の読書記録 : Archives [ 2013年10月 ]

フランス語の小説、漫画、エッセイ等の読書の記録

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重犯罪を犯した少年少女の逃避行をSlam(スラム)に乗せて描いた小説

17:49

表紙写真balafre「Balafre」

著者 : Maurice Lévêque
分類 : 独創的な小説

出版社  : Poulpe Edition
本の種類 : ソフトカバー(15x1x21)
ページ数 : 201頁


重犯罪を犯し、未成年矯正施設に収容された 8人の少年と少女の姿を Rainbow と名乗る Slam(スラム)詩人の少年の日記という形で綴った小説。

Slam というのは、低収入者層が多く住むパリ近郊の地区を中心に流行した、音楽に乗せて詩をリズミカルに朗読する、新しい音楽のジャンル。 

本書には、この新しい詩と音楽を融合させた Slam(スラム)が効果的に盛り込まれており、Slam 詩人である Rainbow の乾いた口調で、日常茶飯事化した虐待や暴力が少年や少女達の心を歪ませ、内に溜まった憤りとストレスが重犯罪という形で爆発する様が、リズミカルに綴られてゆく。


無慈悲な運命の元、幼年時代を送ることを余儀なくされ、過激な暴力行為という手段でしか自己表現をする術を見つけられず、挙句の果てに凄惨な犯罪を犯し、未成年矯正施設に送り込まれた少年や少女の過去が語られてゆくのだが、彼らの行為を弁護する事なしに、著者は、どうして彼らがそのような行為に走ってしまったのか、読者に理解させる事に成功している。

治すことなど出来やしないほど壊れてしまった心を持った少年少女の妥協を許さない激烈な生き様を、ビートに乗せてカラッと描いた小説。

冒頭と巻末の少年裁判所の判事の言葉が、飄々とした Rainbow の手記に、文鎮のような重みを加えている。

読み易いフランス語で書かれているが、俗語が多いので、フランス語難易度は『難しめ』になっている。

【こんな人にお勧め】
Slam(スラム)が効果的に使われている小説を読みたい方。  アウトローな少年少女が主人公の小説を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 4/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【外部リンク】
  • Kindle 版「Balafre」のアマゾン・フランスの頁
  • Poulpe Edition 出版社の「Balafre」の紹介ページ

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独創的な小説
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往年の喜劇映画のようなノリのフランスの小説

21:21

表紙写真extraordinaire voyage du Fakir「L'extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire ikea」

著者 : Romain Puertolas
分類 : ユーモア小説、多読

出版社  : Le Dilettante
本の種類 : ソフトカバー(14X2.3X20.5)
ページ数 : 253頁


ロワシー・シャルルドゴール空港に降り立った、ターバンを頭にまき、仕立ての良いスーツを身にまとったインド人は、タクシーの運転手に「Ikea」と、だけ告げる。

お客の身なりの良さから金持ちだと判断した、こすっからいタクシー運転手の Gutave は、このインド人を、わざと空港近くではない、パリの反対側にある Ikea まで、連れてゆく。

ところが、このAjatashatru Lavash Patel という発音不可能な名前を持つインド人、インドの小さな村で、fakir(苦行僧)として、純真な村人達を騙しながら、生計を立てている詐欺師だったのだ。

Ajatashatru が、片方だけが印刷された偽100ユーロだけを手に、『リューマチを患う彼』のために村人がカンパしたお金で、フランスの Ikeaまで、釘付きベットを買い付けに来た事など、露ほども知らない Gutave は、上手い事、観光客を騙したつもりだったのだが・・・・


インドから、わざわざ『釘付きベット』を、パリにあるイケアまで買いに来た詐欺師が、とんでもない成り行きから、パリ・イギリス・スペイン・イタリア・リビアの各地を、荷物のように転々とする様を描いた小説。

『ヨーロッパの各地を転々と』と、書いたけれど、観光名所は全く登場しないので、旅行記的な小説を期待していると、がっかりされる事間違いなし。

フランスの Ikea のセルフレストランで、ペテンにかけたフランス人女性に恋し、これから真人間になろうと決心したものの、奇妙な偶然に弄ばれ、自ら意図ぜずに、貨物トラック、留置所、空港の荷物用ターンテーブル、飛行機の貨物室、そして挙句の果ては気球等など、どんでもない移動手段で、ヨーロッパを転々とする羽目になってしまった一人の男の姿が、テンポのある筆致で綴られてゆく。

絶対にあり得ない荒唐無稽なストーリーに、ひどくリアルな移民問題を巧みに組み込んだ一味違ったユーモア小説。

小説というより、喜劇映画を読んでいるような感触を受けた、流れるような読み心地の作品なので、多読用や気晴らしの読書に、お勧めしたい一冊である。

【こんな人にお勧め】
喜劇映画みたいな小説が読みたい方。  移民問題が盛り込まれているユーモア小説を読みたい方。 多読用。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 3.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【外部リンク】
本書の試し読みが出来るアマゾン・フランスの「L'extraordinaire voyage du fakir qui était resté coincé dans une armoire ikea」の頁

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カンボジア系フランス人漫画家がクメール・ルージュ支配下のカンボジアを描いた漫画「L'année du lièvre」第2巻

17:14

表紙写真annee de lievre2「L'année du lièvre, Tome 2 : Ne vous inquiétez pas」

著者 : Tian
分類 : 社会派漫画

出版社  : Gallimard
本の種類 : ハードカバー(18x1x25)
ページ数 : 120頁


【概要】
クメール・ルージュによるプノンペン陥落の3日後に生まれ、1980年に両親と共にフランスへ移住した著者が、両親やカンボジアに住む親近者の経験を基に、クメール・ルージュ支配下のカンボジアでの日々を漫画という形に認めた三部作「L'année du lièvre」第2巻。

【ストーリー】
クメール・ルージュに囚えられ、再教育のため農村へ送られた、かつて知識階級に属していた家族の運命が綴られてゆく。

【グラフィック・彩色】
かなりグロテスクなシーンもあるのだが、どことなく素朴さが感じられるグラフィックは、生々しさを和らげる事に成功している。  登場人物に親族が多く、顔が似ているため、戸惑うことがしばしばあった。

【ストーリーボード(ネーム)】
14~18頁程の7つの章に分かれており、第1巻同様、各章の冒頭には、地図や、当時の農村生活を完結に説明したグラフィックが掲載されおり、当時の状況が分かりやすく読者に伝わるように、配慮が配られている。 

【読み心地】
快適

【読後感】
クメール・ルージュ支配下のカンボジアで、再教育のために農村へ送られた知識階級の家族の困難極める生活を、素朴さが感じられるグラフィックに載せて描いた「L'année du lièvre」中巻。  

作品の冒頭に、登場人物達の顔入り家系図が掲載されているのだが、作中人物に親族が多く、顔が似通っている上、皆同じ服を来ているので、カンボジア系の名前に慣れていない私は、とっさに誰の事が描かれているのか見分けがつかぬ事がしばしばあった。  

以前、ブログで紹介したクメール・ルージュ支配下のカンボジアを題材にしたエッセイ「L'élimination」 を読んだ時受けた衝撃があまりに強すぎたためか、さほどのインパクトは受けなかったものの、描き方によってはグロテスクにもなりえるクメール・ルージュ支配下の農村の状況を、客観的な視点からまとめようとする著者の意図が、じわじわと伝わって来る作品に仕上がっている。 

【きわめて個人的な本の評価】
総合評価     : 3/5
ストーリー    : 3.5/5
グラフィック   : 3/5
カラーリング   : 2.5/5
ストーリーボード : 2.5/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち    : 3.5/5(難<易)
 
【関連記事】
  • 「L'année du lièvre, Tome 1 : Au revoir Phnom Penh」
  • 「L'élimination」

【外部リンク】
本書の一部も掲載されている『ブログ・L'année du lièvre』

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社会派漫画
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ジャンル : 本・雑誌
テーマ : BD(フランス漫画)
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半身不随になってしまった父を持つ一人の少女の心内を綴った小説

16:43

表紙写真il sera la debout「Il sera là, debout」

著者 : Isabelle minière
分類 : 多読

出版社  : D'un Noir si Bleu
本の種類 : ソフトカバー(14x1.3x22)
ページ数 : 160頁


Sophie のお父さんは、横たわっている男。  「どうぞお父さんが、起きて歩き出しますように」と、Sophie は、四六時中願うのだが、彼女の望みが叶うことはない。  
気難しいお父さんに頼まれて、彼女には理解することの出来ない雑誌の記事を読んであげるのだが、Sophie は、お父さんの気に入るように朗読する事が出来ない・・・


ある病気のため、半身不随になってしまった父を持つ一人の少女の日常を、短い章立て、父親の心内に併せて、綴った小説。

床についているだけの父親に、時には苛ついたり、悲しくなったりもするが、それでも父親を愛して止まない、少女の心内、父親として娘に接する事の出来ない自分の体に憤りを感じている父親の思いが、綿々と綴られてゆく。

介護の苦難や、母親の思いや、ヒロインの母への気持ちが綴られていないため、フィクションの枠を出ることはないが、家族のつながりの強さを描いたラストの展開には、思わずほろりとさせられてしまった。

【こんな人にお勧め】
病気の父を持つ娘の気持ちを綴った小説を読みたい方。 家族愛をテーマにしたフィクションを読みたい方。 多読用。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 2.5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)


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古代カルタゴ国が舞台のフランス漫画「Les voleurs de Carthage」上巻

00:10

表紙写真voleurs de Carthage「Les voleurs de Carthage - tome 1 - Le serment du Tophet」

ストーリー : Appolllo
作画・彩色 : Hervé Tanquerelle
分類 : 冒険漫画、歴史漫画、アフリカが舞台、中近東が舞台、アングレーム国際漫画フェスティヴァル

出版社  : Dargaud
本の種類 : ハードカバー(24.12x1x32)
ページ数 : 56頁


【概要】
ローマ軍に占領される直前の北アフリカのカルタゴ国を舞台に、カルタゴにある Tanit-face-de-Baal 神殿に隠された秘宝を盗もうと企む二人の脱走兵と一人の巫女を軸に繰り広げられる冒険漫画「Les voleurs de Carthage」上巻。 2014年アングレーム国際漫画フェスティヴァル公式セレクション・ノミネート作品。

【ストーリー】
追い剥ぎで糊口をしのいでいる脱走兵のゴロワ人の Horodamus とヌミディア人の Berkan は、丘の上からウティカ(Utica)人の商隊を密かに狙っていた。  しかし、商隊が、彼らの待ち受けている丘の下にさしかかるやいなや、商隊は、別の丘から突然現れたヌミディア人の兵士による襲撃を受ける。  兵士らの矢を避け、Horodamus 達が潜む丘へ、やっとの思いで逃げてきた一人の女は、Berkan と Horodamus に、囚えられてしまう。

Berkan と Horodamus は、奴隷商人に彼女を売り飛ばして、一儲けしようと、考えていたのだが、そんな二人に、女は、思いがけない事実を打ち明ける。

Tara という名の彼女は、カルタゴの神殿に眠る秘宝を盗むために、ウティカ人から巫女として送り込まれるスパイだったのだ。   そして、Tara は、Berkan と Horodamus に、「傭兵たちに殺された商隊の代わりに、カルタゴまで彼女の護衛をし、彼女の雇い主のウティカ人を出し抜いて三人でお宝をちょうだいしないか」と、持ちかける。


【グラフィック・彩色】
どことなくコミカルさが感じられる、アクのない好感が持てる絵柄。 動きの描き方がとても巧み。  砂漠を思わせる黄色系の色調を基に、彩色されている。


【ストーリーボード(ネーム)】
一部テキストが集中している頁もあるが、リズミカルにストーリーボードが構成されている。


【読み心地】
快適。


【読後感】
紀元前前の古代カルタゴ国という、漫画ではあまりおめにかかる事のない古代アフリカを舞台に、アホな盗人達が活躍するコミカルタッチの冒険漫画「Les voleurs de Carthage」上巻。

どことなくコミカルさが感じられるが、コミック調のアクのないグラフィックには好感が持てるし、読み心地もまずまず。  歴史的な要素が上手く取り入れられているストーリーは、下巻でどのような展開を見せるのか、興味をそそられた。  

【こんな人のお勧め】
古代カルタゴ国を舞台にしたコミカルさが感じられる冒険漫画を読みたい方。
 
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価     : 3.5/5
ストーリー    : 3.5/5
グラフィック   : 3.5/5
カラーリング   : 3.5/5
ストーリーボード : 3.5/5
フランス語難易度 : 2/5(易<難)
読みごこち    : 4/5(難<易)

【関連記事】
  • 著者名別索引・BD 【著者名 T】Hervé Tanquerelle
  • 「Les Voleurs de Carthage, tome 2 : La Nuit de Baal-moloch」

2013年12月16日に、2014年アングレーム国際漫画フェスティヴァル公式セレクション・ノミネートの旨を追記。 2015年1月23日に下巻のリンク追加。 2017年10月26日にリンク切れのため【外部リンク】削除。

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フランス映画「最強のふたり(原題: Intouchables)」のモデルとなった フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴ氏の手によるエッセイ

16:19

表紙写真seconde souffle「Le second souffle suivi du Diable gardien」

著者 : Philippe Pozzo di Borgo
分類 : エッセイ、邦訳有り

出版社  : Bayard
本の種類 : ソフトカバー(14.6x2x19)
ページ数 : 283頁


第24回東京国際映画祭で、最高賞である東京サクラグランプリを受賞し、第36回日本アカデミー賞の最優秀外国作品賞も受賞した映画「最強のふたり(原題: Intouchables)」のモデルとなった フィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴ(Philippe Pozzo di Borgo)氏の手によるエッセイ。 

本書は、映画の公開前2001年に出版された「Le secon souffle」に、映画「Intouchables」に関する考察等も語られる「新装版へのはじめに」と、その後日談である「Diable gardien」が併録された、新装改訂版の「Le secon souffle」である。  

本書の冒頭に掲載されている新装版へのはじめに」の中では、映画のフランス語タイトル「Intouchables」の由来が説明されている。 それによると、「Intouchables」という言葉は、インドのアンタッチャブル(ほどではないけれど←ブログ著者の私感)みたいに、フランス社会から差別を受けているマグレブ系のアブデル、パリの邸宅に住み金と地位に守られ、常人の手の届かない所にいる著者、全く別な意味で「Intouchables」な二人を象徴しているという粋なタイトルである。

さて、話題を本に戻すが、「Le secon souffle」は、著者の祖父や家系、そして著者の幼年時代の想い出について筆が割かれている第1章、著者と一番目の奥様との出会い、二人の生活、そして彼女の病気について語られる2章、パラグライダーの事故とその後の療養生活について筆が割かれている第3章、その後の1998年に至るまでの著者の生活を語った第4章から成り、映画の主要人物の介護人 Abdel が登場するのは、第3章と4章のみ。

そして、「Le secon souffle」の後日談にあたる、2004年までの著者の様子が綴られている「Diable gardien」は、時間的には、映画とほぼ同時期に位置するとの事である。

映画「Intouchables」は、見たいと思いながらも、チャンスを逃してしまい、未だに未鑑賞なのだったけれど、あまりに話題になった作品なだけに、否が応でも、作品については耳に入ってくるので、その概要は把握しているのだが、本書を読んで、映画を見る前に読んでおいて正解だったかも・・・と、いう考えが、ふと頭を横切った。

本書を読んでいて感じたのは、この本は、読者に向けて、というより、著者が、自分の以前の体の死を受け入れるために記した本であるという事。

だから、映画「Intouchables」のような、お手軽に感動が味わえるノンフィクション物とは、次元の違う作品であるため、「Intouchables」的な作品を期待して本書を手に取られると、がっかりされる可能をはらんでいる。

それでも、本書の中盤あたりから登場する、スピード狂で、居眠り運転の常習者、ナンパが得意で女性とは一回限りが信条の女たらし、上流階級の名士が集う集まりに、ストリッパーを呼んでしまい大顰蹙を買ってしまったり・・・等など、ハチャメチャ行為には、事欠かないけれど、著者の体の調子が悪い時には、まるで母親のようになやさしい気遣いを示す Abdel をめぐるエピソードには、思わず頬が緩んでしまった。  

普通なら、『直ちにクビ!』になって間違いない類の Abdel のハチャメチャぶりを楽しんでしまう所に、真のアリストクラシーしか持ち得ない、器の大きさが感じられた。

かつてエクストリーム・スポーツを愛好した著者は、彼といると何が起るかわからない、 Abdel という存在を通して、日々、極限状態に挑戦していたのではないかしら、などという思いが脳裏を横切った程である。

そんな Abdel を巡るエピソードも、面白く読んだのだが、私が、最も心を引かれたのは、著者の自分を取り巻く人々に対する配慮が行間から溢れ出ている所。

人間には、傷つくことで、自分の傷にしか目が行かずに、他人の痛みに対して無関心になる人と、逆に、他人の傷に以前より敏感になる人の二つのタイプの人間がいるのだが、著者は後者であるように、私には感じられた。
  
本書を読み終わり、映画や、ルポ、そして本書でも語られる事のなかった、著者が自分の中に仕舞いこんでいるに違いない事柄に思いを馳せる時、著者の心の深さを垣間見たような気がして、形容しがたい感動を受けた。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 3.5/5(易<難)
読みごこち    : 3.5/5(難<易)

【外部リンク】
  • ペーパーバック版「Le Second Souffle」のアマゾン・フランスの頁
  • 本書の邦訳「A Second Wind」のアマゾン・ジャパンの頁

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フランスの歴史に名を残した著名人の遺骨や遺体の一部の死後の運命を綴った歴史エッセイ集  

16:02

表紙写真histoires os「Histoires d'os: et autres illustres abattis」

著者 : Clémentine Portier-Kaltenbach
分類 : エッセイ

出版社  : Fayard/Pluriel
本の種類 : ソフトカバー(11x1.5x18)
ページ数 : 259頁


死んだら遺体は埋葬され永遠の眠りにつくはずなのだが、尊崇されすぎてしまったあまり、死後も安らかに眠りにつく事を許されなかった、フランス史に名を残した著名人の遺骨や、遺体の一部がどんな運命をたどったかを、シニカルな口調で綴ったエッセイ集。

スウェーデンで、永遠の眠りにつき埋葬されたものの、その遺骨をフランスに埋葬したいとのフランス側の強い希望により、死の16年後に、墓より掘り起こされ、フランスへ運ばれる途中、その一部が行方不明になってしまったデカルトの遺骨を巡るエピソードを皮切りに、

リシュリューの頭蓋骨や、ジャン=ポール・マラーを殺害しギロチンにかけられたシャルロット・コルデーの頭蓋骨が現在ある場所に落ち着くまで、どんな人の手を経て来たのか、

パンテオンに埋葬された偉人や、一時埋葬されたものの、追い出されてしまった遺骨に関するエピソード、

アンバリッドに埋葬されているのは、本当にナポレオンの遺骨なのか?  どうして、フランス政府は、その遺骨のDNA鑑定を拒むのか?

マリー・アントワネットの遺髪とルイ17世と思われる遺体と心臓のDNA鑑定の結果、ルイ17世はタンプル塔で死んだと、検証されたのにも関わらず、どうして未だに、ルイ17世生存説を唱える人がいるのか?

1876年に、パリの屋根裏部屋にあった薬物タンスから見つかった『ジャンヌ・ダルクの火刑台の下で見つけた残骸』と書かれた瓶の中にあった骨と灰のDNA鑑定の結果現れた思わぬ事実とは?

フロベールは、モリエールの本当の父親だったのか?

等など、偉人の遺骨は遺体の一部を収集する慣習があった時代のお話や、DNA鑑定により明らかになった歴史の謎にまつわるお話、等など興味をひかれる話題が盛り沢山。

煽情的な表現を避け、さらりとシニックな筆致で、読み易いフランス語を用いて書かれているのだが、遺骨や遺体の一部の収集といった、特殊な題材が話の中心を占めているので、続けて読むのが少々しんどく感じられた。

しかし、著名人の遺骨や遺体の運命を語る事により、フランスの歴史を思いもかけない角度から切断した、独創的なエッセイ集なので、新しい視点からフランスの歴史を見つめてみたいとお思いの方には、是非、お勧めしたい一冊である。

【こんな人にお勧め】
独創的な切り口からフランスの歴史を見つめたエッセイ集を読みたい方。

【きわめて個人的な本の評価】
作品評価     : 4/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち    : 3.5/5(難<易)

【外部リンク】
「Histoires d'os」に関する著者のインタビューが掲載されているサイト

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開拓時代のアメリカを舞台にしたグラフィックが超素敵なフランス漫画「Frenchman」の後日談「Pawnee」

15:53

♥ Coup de coeur ♥
表紙写真Pawnee「Pawnee」
著者 : Patrick Prugne
分類 : 冒険漫画、歴史漫画、絵が素敵な漫画、彩色が素敵な漫画、お勧め漫画

出版社  : Daniel Maghen
本の種類 : ハードカバー(25x1x33)
ページ数 : 104頁


【概要】
フランスからアメリカに譲渡された、かつてフランス領だったミシシッピー一帯の開拓時代のアメリカを舞台に展開する、繊細で優美なグラフィックの冒険漫画「Frenchman」 の続編。
76頁からなるカラー漫画の後に、本書執筆のために描かれたスケッチ&デッサン集27頁が掲載されている。

【ストーリー】
1811年、アメリカ大陸。 9年の間、Alban は Louis の行方を探し求め続けたものの、それは徒労に終わり、Alban はフランスへ帰国しようかと思い始めていた。  その頃、Louis を探すため、Louis の父の家の使用人を伴い、Alban の姉の Angèle が、アメリカ大陸に降り立つ。  しかし、フィラデルフィアに着いた Angèle は、アメリカ原住民らの暴動が起こったため、西部への乗合馬車の運行は見合わされている、と知らされる。

【グラフィック・彩色】
淡い水彩画風の繊細で優美なグラフィックで、開拓時代のアメリカの風景が感動的な美しさで描かれている。

【ストーリーボード(ネーム)】
ダイナミックで、リズミカル。

【読み心地】
至極快適。

【読後感】
以前ブログで紹介した本書の前編にあたる「Frenchman」 や、Patrick Prugne 氏が作画を手がけた「Canoë Bay」と同様、開拓時代のアメリカを舞台にした、淡い水彩画風なグラフィックの、33x25㎝の大判サイズでオールカラーの豪華本。

「Frenchman」を読み終わった時に、作中人物達のその後が気になって仕方がなかったので、その続編が出版されたと知り、すぐに手に取った。

ストーリーには、これといった目新しさは感じられなかったが、紆余曲折を経て成長した作中人物達がこの後どのようになるのか、想像する楽しさを読者に残した幕に引き方は、心憎いと思った。  一応、お話は完結しているが、作中人物達の今後が気になって仕方がないので、出来る事なら続編を読んでみたいものだと、今回も思わされてしまった。

グラフィックについては、「Frenchman」同様、美しいグラフィックをたっぷり満喫する事が出来、これこそBDを読む醍醐味! と頁をめくりながら、溜息がもれた。

読み応えたっぷりな76頁からなる漫画の おまけ(?)として、作品のおしまいに掲載されているスケッチの欄外には、著者の自分の絵に対する手厳しいコメントが書かれているので、お見落としのないように!

とても美しいグラフィックの、流れるような読み心地のフランス漫画なので、「Frenchman」と併せて、日本でも紹介してもらいたい一冊である。

【こんな人のお勧め】
水彩画風の繊細で美しいグラフィックの漫画を読みたい方。 開拓時代のアメリカを舞台にした漫画を読みたい方。
 
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価     : 4/5
ストーリー    : 4/5
グラフィック   : 5/5
カラーリング   : 5/5
ストーリーボード : 5/5
フランス語難易度 : 1.5/5(易<難)
読みごこち    : 5/5(難<易)

【関連記事】
  • 「Frenchman」
  • 著者名別索引・BD 【著者名 P】Patrick Prugne

【外部リンク】
  • Facebook の Patrick Prugne 氏の頁
  • Daniel Maghen 出版社の「Pawnee」紹介ページ

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Lemon.fr

Author:Lemon.fr
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