「Quiconque exerce ce métier stupide mérite tout ce qu'il arrive」
著者 : Christophe Donner
出版社 : Grasset
本の種類 : ソフトカバー(14x2.5x20.5)
ページ数 : 300頁
気宇壮大な志を抱き、70年代のフランスの映画界を闊歩した、「La grande bouffe(最後の晩餐)」「Tess(テス)」をプロデュースした映画プロデューサー Jean-Pierre Rassam を軸に展開する小説。
兎にも角にも、多分、今まで読んだ本の中で五本の指に入る優れたタイトルであると思った『Quiconque exerce ce métier stupide mérite tout ce qu'il arrive(この愚かな職業に就く者誰しもに起る全ての事は自業自得である)』という表題を目にし、「こんな素敵なタイトルの本を読まないわけにはいかない!」と、意気込んで、本書を開いた。
表紙を見た時には『この愚かな職業』とは作家を指しているのではないかと想像したのだが、本書の中の記述によると、このタイトルは、オーソン・ウェルズが映画人について述べた言葉から取られているそうである。 でも、良く考えてみれば、このオーソン・ウェルズの至言は、大抵の職業に当てはまるような気もする。
リバン人の億万長者の息子で、ずば抜けた頭脳、カリスマ性と社交性を持つ才気煥発な Rassam は、賭けポーカーで、映画監督クロード・ベリーと出会った事をきっかけに、映画のプロデュースの仕事に関わるようになる。
その後、自分がプロデュースした映画をカンヌ映画祭の公式セレクションに選ばれるようロビー活動をしたり、父親関係のコネを利用してオイルマネーから映画資金を調達を試みたり等など、プロデューサーとして、ありとあらゆる手を尽くし、奮闘する Rassam の姿が描かれてゆく。 そして、著者は、そんな Rassam の姿と並行して、Rassam が溺愛する Rassam の妹と結婚し「老人と子供」で大成功を収めた映画監督クロード・ベリー(Claude Berri)や、クロード・ベリーの妹で、脚本家の Arlette Langmann のパートナーである映画監督のモーリス・ピアラ(Maurice Pialat) の姿にも筆を傾ける。
パリ・マッチのインタビューの中で、著者は、本書には事実が書かれているわけではなく、虚構が少なからず混ぜられているというような発言をしている。 だから、本書は伝記的小説ではなく、実在した人物を元に書かれたフィクションなのだが、フィクションとして読むと、Rassam の内面の描写が希薄、もしくは部分的であるように、私には感じられた。
超活動的で、女や、酒、ドラッグ、そして贅沢に目がなく、人並み外れた頭脳と財を持つ一人の若者が、フランスの映画界を駆け巡る様を描いた前半から中盤にかけては、中々楽しめたのだが、 Rassam の挫折が描かれる後半部分があっさりしすぎなので、小説として読むと、いささか消化不良の感が否めない。
Rassam の家族に対する配慮から、著者が思う存分に筆を揮う事が出来なかったのは想像に難くないが、 先に挙げたインタビューで、Rassam の家族から本書に対する苦情が出たと著者が述べていた事からも、実在した人物をモデルに小説を書くことの難しさが伺われる。
しかし、本書には、クロード・ベリーの『自伝的』映画「老人と子供」は、忠実な自伝ではなく、虚構を交えた『自伝的映画』であったが、それ故にヒットしたのだという事や、嘘の自伝的映画を撮ることで、ベリーには自分の過去を再構築しようという意図があったのではないかという指摘など、70年代から80年代にかけてのフランス映画界に関する興味深い要素が少なからず盛り込まれている。 そして、なによりも、華麗なるギャツビーならぬ、華麗なる Rassam と呼びたくなる、 Jean-Pierre Rassam という、稀有な人物が取り上げられているので、フランス映画界に興味をお持ちの方は、面白く読まれるのではないかと思った。
【こんな人にお勧め】
【きわめて個人的な本の評価】
【関連記事】
【外部リンク】
著者 : Christophe Donner
分類 : パリが舞台
出版社 : Grasset
本の種類 : ソフトカバー(14x2.5x20.5)
ページ数 : 300頁
気宇壮大な志を抱き、70年代のフランスの映画界を闊歩した、「La grande bouffe(最後の晩餐)」「Tess(テス)」をプロデュースした映画プロデューサー Jean-Pierre Rassam を軸に展開する小説。
兎にも角にも、多分、今まで読んだ本の中で五本の指に入る優れたタイトルであると思った『Quiconque exerce ce métier stupide mérite tout ce qu'il arrive(この愚かな職業に就く者誰しもに起る全ての事は自業自得である)』という表題を目にし、「こんな素敵なタイトルの本を読まないわけにはいかない!」と、意気込んで、本書を開いた。
表紙を見た時には『この愚かな職業』とは作家を指しているのではないかと想像したのだが、本書の中の記述によると、このタイトルは、オーソン・ウェルズが映画人について述べた言葉から取られているそうである。 でも、良く考えてみれば、このオーソン・ウェルズの至言は、大抵の職業に当てはまるような気もする。
リバン人の億万長者の息子で、ずば抜けた頭脳、カリスマ性と社交性を持つ才気煥発な Rassam は、賭けポーカーで、映画監督クロード・ベリーと出会った事をきっかけに、映画のプロデュースの仕事に関わるようになる。
その後、自分がプロデュースした映画をカンヌ映画祭の公式セレクションに選ばれるようロビー活動をしたり、父親関係のコネを利用してオイルマネーから映画資金を調達を試みたり等など、プロデューサーとして、ありとあらゆる手を尽くし、奮闘する Rassam の姿が描かれてゆく。 そして、著者は、そんな Rassam の姿と並行して、Rassam が溺愛する Rassam の妹と結婚し「老人と子供」で大成功を収めた映画監督クロード・ベリー(Claude Berri)や、クロード・ベリーの妹で、脚本家の Arlette Langmann のパートナーである映画監督のモーリス・ピアラ(Maurice Pialat) の姿にも筆を傾ける。
パリ・マッチのインタビューの中で、著者は、本書には事実が書かれているわけではなく、虚構が少なからず混ぜられているというような発言をしている。 だから、本書は伝記的小説ではなく、実在した人物を元に書かれたフィクションなのだが、フィクションとして読むと、Rassam の内面の描写が希薄、もしくは部分的であるように、私には感じられた。
超活動的で、女や、酒、ドラッグ、そして贅沢に目がなく、人並み外れた頭脳と財を持つ一人の若者が、フランスの映画界を駆け巡る様を描いた前半から中盤にかけては、中々楽しめたのだが、 Rassam の挫折が描かれる後半部分があっさりしすぎなので、小説として読むと、いささか消化不良の感が否めない。
Rassam の家族に対する配慮から、著者が思う存分に筆を揮う事が出来なかったのは想像に難くないが、 先に挙げたインタビューで、Rassam の家族から本書に対する苦情が出たと著者が述べていた事からも、実在した人物をモデルに小説を書くことの難しさが伺われる。
しかし、本書には、クロード・ベリーの『自伝的』映画「老人と子供」は、忠実な自伝ではなく、虚構を交えた『自伝的映画』であったが、それ故にヒットしたのだという事や、嘘の自伝的映画を撮ることで、ベリーには自分の過去を再構築しようという意図があったのではないかという指摘など、70年代から80年代にかけてのフランス映画界に関する興味深い要素が少なからず盛り込まれている。 そして、なによりも、華麗なるギャツビーならぬ、華麗なる Rassam と呼びたくなる、 Jean-Pierre Rassam という、稀有な人物が取り上げられているので、フランス映画界に興味をお持ちの方は、面白く読まれるのではないかと思った。
【こんな人にお勧め】
「Nous ne vieillirons pas ensemble」「La grande bouffe(最後の晩餐)」「Tess(テス)」のプロデューサーをモデルにした小説を読みたい方。 70年代から80年代にかけてのフランス映画界に興味のある方。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 3/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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