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著者 : Pierre Raufast
出版社: Alma
本の種類: ソフトカバー(13.5x2x18.5)
ページ数: 218頁
デビュー作 「La fractale des raviolis」が、私に強烈な衝撃を与えた Pierre Raufast 氏の3番目の小説。
先にブログで紹介した「La fractale des raviolis」や「La variante Chilienne」と同様、奇想天外なのだが、実際にありそうな複数のエピソードが一つのうねりとなり、一つの小説を成していくというスタイルが用いられた中編小説である。
先に紹介した2作と比較すると今回は、ニューテクノロジーがらみのエピソードが多くなっている。
「La fractale des raviolis」は、マトリューシュカ人形、「La variante Chilienne」はガラスの瓶に入った石の様な構成だったが、本書は、それぞれのエピソードの端がフックのようになっており、そのフックを別のエピソードのフックに引っ掛けて、エピローグに至るまで連鎖させてゆく、という、連作短編小説として、良く使われる手法が用いられている。
「La fractale des raviolis」同様、実際に存在する事柄に想像力で色を付け、仕立て上げられたエピソードが寄せ集められているのだが、ぶっ飛んだ面白さが味わえた処女作と比較すると、奇抜さ、斬新さといった点では少々トーンダウンしたように、私には感じられた。
どういうわけか、一つの作品を仕上げるために葬られた数々のエピソードへの著者の思いが綴られている「Lignes de suite」と題された「あとがき」的なテキストの方が、作品自体より、私には印象的に感じられたのだが、これは好みの問題であろう。
「La fractale des raviolis」があまりに凄すぎたため、辛めの評価になってしまったが、気軽にサクサク読める連作短編小説集なので、多読用や、気晴らしの読書に最適な一冊であるのは間違いない事を付け加えておきたい。
【こんな人にお勧め】
多読用。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 3/5
フランス語難易度 : 2.5/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 2.5/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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♥ Coup de coeur ♥
「Une Antigone à Kandahar
」
著者 : Joydeep Roy-Bhattacharya
原題: 「The Watch
」
翻訳: Antoine Bargel
出版社: Editions Gallimard
本の種類: ソフトカバー(14x2.5x20.5)
ページ数: 263頁
アフガニスタンの Kandahar 地方にあるアメリカ軍ベースを目指し、ブルカを纏り、台車を改造した車椅子に乗った人影が山を降りて来る。 アメリカ軍ベースを襲撃し、命を落とした兄の死体を埋葬するため、その人物は山の向こうの村からやって来たのだ。
この人物は本当に死んだテロリストの妹なのか、それとも、それにみせかけ、テロを目論む者なのか? ベース内部は動揺する・・・
「Une Antigone à Kandahar」のタイトルがついている本書の著者は、カルカッタ出身の作家 Joydeep Roy-Bhattacharya 氏であり、原語は英語で、原題は「Watch」。
翻訳本とは思えないくらい、自然で、読みやすいフランス語に訳されており、本文の翻訳の質は申し分ない出来。 それなのに、どうしてこのような、作品を読む楽しみを削ぐタイトルが付けられたのか、理解に苦む所である。
フランス語のタイトルが示すよう、ソポクレスのアンティゴネの逸話をなぞり、本書のストーリーが組み立てられている。
しかし、ギリシャ悲劇になぞられたフィクションとは思えないほど、アフガニスタンの現状をリアルに映し出しており、実話を元にしていると言われたら、そのまま信じてしまいそうだ。
「兄の死体を礼節に則って埋葬したい」と願う、両足をアメリカ軍の空爆により失ったアフガニスタン人の女性の視線から物語が語られる第1章で、本書は幕を上げる。
そして、それに引き続く章では、アメリカ軍ベースに駐在する複数の士官や兵士の視点から、ベース襲撃、その後のベースの内情、ベースの前に居座る『テロリストの妹と名乗る人物』にどう遇するべきか戸惑う様、それに加え、それぞれの兵士の過去が明らかにされてゆく。
車椅子と共に生きる事を余儀なくされた、一人の女性の『兄の体を埋葬したい』という、人間としては当たり前の願い。
それと対峙し、
いつ、どんな形で襲ってくるか分からぬテロへの恐怖。
仲間の死がもたらしたショック。
睡眠不足と神経が張りつまされ続ける事から来る疲労。
逆らうことの出来ない上部からの指令。
タリバンに抑圧されているアフガニスタンの人々を救うために来たはずなのに、目の前のたった一人の女性の『家族を礼節にのっとって埋葬したい』という、慎ましい望みさえ叶える事の出来ないジレンマ。
等など、様々なジレンマと矛盾、そして過労とストレスに、心身を苛まれるアメリカ軍ベースに駐在する兵士らの心の叫びが、綴られてゆく。
仏語訳のタイトルが、ネタバレになってしまっているため、お話の終着点は、ある程度想像がついてしまったのだが、それにもかかわらず、本を閉じた後でも、心の震えが止まらなかった程の衝撃を受けた。
ここ数年の間、優れた小説や、胸を熱くする作品、感涙が止まらない作品には、幾度も出会ったが、衝撃という点では、本書に及ぶものは皆無である。
他国への軍事介入の難しさと、ギリシャ悲劇の偉大さがひしひしと伝わってくる、現代文学の傑作。
他国への軍事介入を决定する立場にある政治家には、是非とも一読してもらいたい、日本にも紹介してもらいたい一冊である。
【こんな人にお勧め】
【きわめて個人的な本の評価】
【外部リンク】

著者 : Joydeep Roy-Bhattacharya
原題: 「The Watch
翻訳: Antoine Bargel
出版社: Editions Gallimard
本の種類: ソフトカバー(14x2.5x20.5)
ページ数: 263頁
アフガニスタンの Kandahar 地方にあるアメリカ軍ベースを目指し、ブルカを纏り、台車を改造した車椅子に乗った人影が山を降りて来る。 アメリカ軍ベースを襲撃し、命を落とした兄の死体を埋葬するため、その人物は山の向こうの村からやって来たのだ。
この人物は本当に死んだテロリストの妹なのか、それとも、それにみせかけ、テロを目論む者なのか? ベース内部は動揺する・・・
「Une Antigone à Kandahar」のタイトルがついている本書の著者は、カルカッタ出身の作家 Joydeep Roy-Bhattacharya 氏であり、原語は英語で、原題は「Watch」。
翻訳本とは思えないくらい、自然で、読みやすいフランス語に訳されており、本文の翻訳の質は申し分ない出来。 それなのに、どうしてこのような、作品を読む楽しみを削ぐタイトルが付けられたのか、理解に苦む所である。
フランス語のタイトルが示すよう、ソポクレスのアンティゴネの逸話をなぞり、本書のストーリーが組み立てられている。
しかし、ギリシャ悲劇になぞられたフィクションとは思えないほど、アフガニスタンの現状をリアルに映し出しており、実話を元にしていると言われたら、そのまま信じてしまいそうだ。
「兄の死体を礼節に則って埋葬したい」と願う、両足をアメリカ軍の空爆により失ったアフガニスタン人の女性の視線から物語が語られる第1章で、本書は幕を上げる。
そして、それに引き続く章では、アメリカ軍ベースに駐在する複数の士官や兵士の視点から、ベース襲撃、その後のベースの内情、ベースの前に居座る『テロリストの妹と名乗る人物』にどう遇するべきか戸惑う様、それに加え、それぞれの兵士の過去が明らかにされてゆく。
車椅子と共に生きる事を余儀なくされた、一人の女性の『兄の体を埋葬したい』という、人間としては当たり前の願い。
それと対峙し、
いつ、どんな形で襲ってくるか分からぬテロへの恐怖。
仲間の死がもたらしたショック。
睡眠不足と神経が張りつまされ続ける事から来る疲労。
逆らうことの出来ない上部からの指令。
タリバンに抑圧されているアフガニスタンの人々を救うために来たはずなのに、目の前のたった一人の女性の『家族を礼節にのっとって埋葬したい』という、慎ましい望みさえ叶える事の出来ないジレンマ。
等など、様々なジレンマと矛盾、そして過労とストレスに、心身を苛まれるアメリカ軍ベースに駐在する兵士らの心の叫びが、綴られてゆく。
仏語訳のタイトルが、ネタバレになってしまっているため、お話の終着点は、ある程度想像がついてしまったのだが、それにもかかわらず、本を閉じた後でも、心の震えが止まらなかった程の衝撃を受けた。
ここ数年の間、優れた小説や、胸を熱くする作品、感涙が止まらない作品には、幾度も出会ったが、衝撃という点では、本書に及ぶものは皆無である。
他国への軍事介入の難しさと、ギリシャ悲劇の偉大さがひしひしと伝わってくる、現代文学の傑作。
他国への軍事介入を决定する立場にある政治家には、是非とも一読してもらいたい、日本にも紹介してもらいたい一冊である。
【こんな人にお勧め】
国際軍事援助の難しさを描いた小説を読みたい方。 アフガニスタンを始めとする中東を舞台にした小説を読みたい方。 国際社会派小説と、ギリシャ悲劇を融合した小説を読みたい方。
【きわめて個人的な本の評価】
作品評価 : 5/5
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
フランス語難易度 : 3/5(易<難)
読みごこち : 4/5(難<易)
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